2022年中間選挙、トランプ上院議員誕生か?

アメリカ101 第71回

これだから「ポリティカル・ジャンキー」(political junkie)はやめられないということでしょうか。日本語では、政治絡みの話題なら徹夜でも語り明かすことができる「床屋談義が好きな人」ということでしょうが、今回取り上げる「2022年中間選挙でトランプ上院議員誕生へ」というのが、この床屋談義のテーマです。ここで言う「トランプ上院議員」とは、大統領選挙で敗北、現在はフロリダ州マイアミのマー・ァ・ラゴの邸宅に引きこもり、公の場に顔を見せていないドナルド・トランプ前大統領ではなく、次男エリックの妻ララ・トランプ(Lara Trump)(38)のことです。トランプ一族では、しばしば長男トランプ・ジュニアや長女イバンカの政治家転身がうわさされてきましたが、ララが政治面での「トランプ・ブランド」を引き継ぐ有力候補として、このところ注目を浴びているのです。「政治に関心がない」「政治のことはわからない」といった向きの人の興味を引くであろう「ヒューマン・ストーリー」でもあります。

 

ララ・トランプという名前を耳にして、すぐに「アー、あの女性か」と合点がいくのは、相当なポリティカル・ジャンキーでしょう。エリックと結婚したのが2014年。2012年から2016年まで、娯楽情報テレビ番組「Inside Editon」のプロデューサーで、その関係で知り合ったようです。昨年の大統領選挙では、義父の熱烈な支持者として、大統領顧問という肩書もあり、主として女性票固めの集会にしばしばスピーカーとして出席。生まれ育ったサウスカロライナ州特有のゆっくりした南部なまりではなく、マンハッタンで働くキャリアウーマンらしいメリハリのきいたスピーチを駆使する、知る人ぞ知るカリスマ的存在でした。昨年の共和党全国大会では、エリックと結婚して「トランプ一族の身内」となった経験について演説、それ以前に耳にしたうわさと異なり、義父トランプが思いやりに満ちた、家族思いの善良な人物であることを実感したという「トランプ賛美」を口にして、支持者の注目を集めました。

 

そのララ・トランプの政界進出説が初めて報じられたのは、大統領選でのトランプ敗北が明らかになった同月中旬で、ニューヨーク・タイムズ紙が関係筋の情報として、出身州ノースカロライナ州選出の現職上院議員(共和党)リチャード・バーが再選不出馬を表明したのを受けて、その後任を狙うと伝えました。現職不在の「オープン選挙」であるため、共和党からは数人の有力政治家が立候補への意欲を示しているため、党候補指名確保に向けて激しい予備選挙が予想されています。

 

現在共和党は、大統領選敗北後の「ポスト・トランプ」の方向性を模索中です。二回目のトランプ弾劾裁判では、党内から有罪とする造反議員が7人も出ました。トランプ支持で結束してきた共和党内での亀裂の深さを物語るものです。そして、とりあえずトランプ無罪評決という“みそぎ”を経て、態勢立て直しに本格的に取り組む矢先に、突然出てきたのが、「ララ・トランプは共和党の未来」とするリンゼー・グラム上院議員(共和、ノースカロライナ州選出)の発言です。同党の重鎮で、マー・ラ・ゴの邸宅で表面的には沈黙を守るトランプとコンタクトがあるというグラムは、2月14日のフォックス・ニュースとのインタビュー番組で、「今回の弾劾裁判を通じての最大の勝者(winner)はララ・トランプだと思う」「彼女が(上院選に)出馬するなら、間違いなく支援する。なぜなら、彼女は共和党の将来を代表する人物だからだ」と最大限の誉め言葉を口にしました。これがトランプの意向を反映したものかで憶測を呼んでおり、ララ・トランプ自身は沈黙を守っているものの、今後の共和党、そしてアメリカの政治を見通すうえで欠かせない人物として一躍スポットライトを浴びています。

 


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

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