赤字対策に必死の新聞業界 アメリカで発行部数を伸ばす媒体の特長とは

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アメリカ101 第219回

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全米で第六位の発行部数を誇り、西海岸では最大というロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)が揺れています。  

1881年創刊以来142年の歴史を有する、アメリカを代表する日刊紙のひとつ。一時は首都ワシントンでの現地版印刷という“快挙”に乗り出したこともあったのですが、長続きせず、今年1月19日には、人員削減に抗議する労組の呼びかけによる史上初めてのストがあったほか、地元選出の連邦議会下院議員が連名で、経営陣に「ドラスティック」(drastic=極端)な措置を回避するよう求めるといった動きがあります。しかし会社側は、大幅赤字で抜本的な対応が避けられないとしており、労使関係の緊張が一段と高まるのが避けられないというのが現状です。  

ネットを通じてニュースに接するという向きが圧倒的に多いという時代の流れの中で、紙面を通じた活字媒体による新聞という伝統的なマスメディアの退潮現象は、日本でも深刻な問題となっているのですが、アメリカでも同様です。  新聞業界は対策に追われているものの、決め手はなく、模索が続いており、LAT紙も例外ではありません。経営側は恒常的な大幅赤字に直面して、経費削減に取り組むのに加えて、主要なコストである雇用賃金にメスを入れる人員削減が不可避として、編集部門での記者数削減を中心に生き残りをかけた対応を打ち出しています。  

LAT紙はアメリカではニューヨークに次ぐ人口第二位の大都市ロサンゼルスを含む南カリフォルニア一帯をカバーするという“地域紙”で、日本の中部日本新聞に近いイメージです。発行部数は印刷版が平均14万部、デジタル版が10万部といったところ。  業界紙によると、2022年現在でアメリカで最大の発行部数(印刷版)を誇るのは、“全国紙”である経済専門紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の70万部弱。2位以下は、アメリカを代表する“高級紙”「ニューヨーク・タイムズ」が33万部、“全国紙”「USAトゥデー」が16万部、「ワシントン・ポスト」が15万部、タブロイド紙の「ニューヨーク・ポスト」が14万部などです。そして部数トップ25紙の平均増減は12%減。   

二桁台の減少だった新聞が多数を占めているのですが、例外的に唯一プラスだったのは、フロリダ州中西部で発行されている「ビレッジズ・デイーリー・サン」(Villages Daily Sun)で、発行部数は5万部弱、プラス3%。一方減少幅が最小だったのは「ニューヨーク・ポスト」(New York Post)(14万6千部)のマイナス2%ですが、同紙は大部分がニューヨーク市内のキオスクで販売するタブロイド紙で、購読者の大部分が通勤客とみられます。  

プラスだった「デイリー・サン」の定期購読者の多くは、「ザ・ビレッジズ」と呼ばれる引退者コミュニティー居住者で、このコミュニティーは、2010年から2020年までの期間でアメリカ国内で最大の住民増を記録したところ。1部売りの単価は1ドルなのですが、定期購読者が90%を占めていて、年間購読料金は最低で88ドルという安価に設定されているのも、部数増の背景にあるとみられています。  

一方最悪の部数減少だったのはフロリダ州の「タンパベイ・タイムズ」。2020年に週2回発行に切り替えた結果が影響したのか、水曜版は26%減となり、次いで「フィラデルフィア・インクアイアラー」が20%減を記録しており、新聞業界の苦境の深刻さの度合いを示しています。

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(1/30/2024)

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