歴代のアメリカ政府が抱える“宿題”奴隷制度への賠償問題

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アメリカ101 第229回

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 歴代のアメリカ政府が抱える“宿題”があります。人格を有する人間ではなく、人種差別の観点から、単純労働に従事する、労働力の提供という目的のためにのみ存在した、白人に奉仕する奴隷としての黒人対する金銭面での賠償問題です。
 
 南北戦争を経て“奴隷解放”が実現したあとも、さまざまな面での人種差別が続いたものの、1950年代の公民権運動によって差別撤廃が実現、人種差別のない平等社会が実現したかにみえるアメリカです。しかし実質的にはさまざまな面での“残りかす”を整理するには、まだまだ時間がかかるのが現実です。それと同時に、奴隷制度の“歴史的決算”として残された賠償問題が近年、政治的課題として表面化しています。 
 
 とくに州レベルでは、カリフォルニア州議会で、具体的な方策の実現に向けた法律の整備で議論が進んでいます。「what way」(賠償方策)、「how much」(賠償金額)、「who pay」(賠償支払い当事者)、「who receive」(賠償受領者)といった問題を、いかに解決するするかで論議が展開しています。
 
 一方イリノイ州エバンストン市議会という地方自治体も、すでに2019年時点で積極的に取り組んでおり、賠償基金の規模などで決議。差別を受けた黒人の子孫にあたる地元住民に賠償金を支払う方向で予算措置を検討したとのこと。
 
 シカゴ発の時事通信の報道では、同市市議会は具体策として、過去の人種差別的な住宅政策や慣行で損害を被った黒人や、その直系子孫に、一世帯当たり最高2万5600㌦(約270万円)を支払うようにとの決議を採択、2019年に賛成多数で承認しています。具体的な対象は、1919年から1969年にかけて市内に居住していて、その間に住宅差別を受けた黒人やその直系子孫らで、その住宅差別は、市街地や公共交通機関から離れた、生活インフラの整っていない住宅が多い区域への強制的な転居というかたちで行われたとのこと。
 
 同市議会は同年に1000万ドル(約11億円)規模の賠償基金を創設決議を採択。初回の賠償額は40万ドル(約4400万円)で、財源としては、同州で合法化されている大麻販売関連の税収の一部や寄付金が充てられました。
 
 奴隷への賠償については、南北戦争に先立つ18世紀に、奴隷廃止の主張を掲げていたクエイカー教徒たちが、奴隷を抱えていた白人による解放奴隷への賠償支払いを主張したとの記録が残されています。
 
 また金銭的な賠償ではなく、黒人への謝罪というカタチでの贖罪も行われ、現在副大統領で、自身が黒人でもあるカマラ・ハリス連邦上院議員(当時)は2019年4月に、黒人への賠償支払い構想を支持する旨を表明しています。
 
 しかし全米規模での世論調査では、奴隷の子孫に対して税金を使って賠償を支払うことについては、賛成がわずか20%程度にとどまっており、連邦政府レベルでの賠償が実現するのは難しい見通しです。
 
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(4/24/2024)

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