平均寿命が短くなるアメリカドラッグ悪用が影響

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アメリカ101 第228回

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 そのドラッグ悪用の背景には、さまざまな慢性疾患の増加があります。例えばうつ病の比率は過去最高を記録し、成人の間での肥満者の比率は21世紀になって、それまでの30%から42%に増え、極端な肥満者は倍増を記録、心血管疾患、糖尿病などのリスクが高くなっています。またワクチンで発症が予防できた疾患が懸念材料となっているほか、過去10年で性病も急増を記録。さらに新型コロナウイルス感染症も、患者の死因トップ3のひとつとなりました。

 これらの疾患は、それ自体が個々の患者に影響を与えるだけでなく、アメリカ経済全体に破壊的なインパクトとなっています。平均寿命が1年伸びると、アメリカ経済の国民総生産(GDP)の4%増をもたらすのですが、逆に疾病流行となれば、医療支出は劇的に増加する結果となり、アメリカのGDPの17%に相当する4兆5000憶ドルが医療支出にまわるとのことです。同時に個々の患者の個人負担も急増し、個人破産に追い込まれるケースが増えるという、アメリカにとって総体的なマイナスの経済効果を生み出します。

 そして、工業先進諸国にあって、例外的にアメリカだけが、被雇用者が病気で寝込んだ場合の公的な有給休暇制度が存在しないために引き起こされる“家族悲劇”も、よく知られている現象です。

 アメリカでの医療保健関連の年間支出は推定総額4・5兆ドルとのことですが、そのうち予防医療の支出はわずか4%程度に過ぎず、大部分が治療に振り向けられるという現状は、莫大な医療支出コストを強いられながら、さまざまな医療保健統計で、アメリカが“保健後進国”として分類されている背景を物語っており、“保健先進国”への仲間入りはまだまだ先のことのようです。
 
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(4/24/2024)

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