店員にボディカメラ 無法集団による万引き対策

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アメリカ101 第234回

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 いまやアメリカが、日本での“嘆き節”の常套句である「世も末」を具現した社会になりつつあるのではないかと思わせる、嘆かわしい、無法集団による小売店舗の略奪行為が、ここロサンゼルスで頻繁に起こっています。

 数年前までは、小売店舗を集団で略奪する行為は、1992年のロサンゼルス暴動の際のように、人種差別に起因する暴動で生じた無法状態に乗じたものでした。だがここ数年は、フラッシュ・ロブ(flash rob=素早い窃盗行為)と呼ばれるように、警察が緊急出動し、現場に到着するまでの短時間に展開される瞬時(flash)の集団略奪行為が珍しくありません。数十人が徒党を組み、金目のものを店舗から重点的に持ち出し、クルマに積んで逃走するという手口です。さらに手が込んだやり方は、店舗周辺の道路を占拠して、傍若無人の危険なクルマ運転をストリート・テイクオーバー(street takeover)と称して繰り返す狼藉も働く始末です。

 小売店側では、万引き防止のために、営業時間中でも陳列商品へのアクセスを制限し、比較的高価なものには施錠し、簡単には持ち出せないよう工夫して、警報装置などの防犯装置を取り付けるなどの防止策に取り組んでいます。だが日中や深夜を問わず、「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」という、日本の盗賊の代名詞でもある安土桃山時代の悪名高い大盗賊、石川五右衛門の辞世の句にある通り、「盗人の種」は尽きないようです。

 そして最近では、今月(6月)10日未明に、ロサンゼルス・ダウンタウン南に位置するサウスセントラルの101号線ハーバーフリーウェー沿いのバーモント・ビスタ地区で、自動車部品大手オート・ゾーンの店舗が狙われ、ストリート・テイクオーバーのあと、大人数の集団が店内に乱入、陳列してあった商品を運び出して逃走する事件がありました。

 ロサンゼルス市警(LAPD)に第一報の911番緊急電話があったのが午前4時直前で、現場はセンチュリー・ブルバードとフーバー・ストリートの交差点付近。第二報では、約50人の集団だったとのこと。現場付近を映したビデオ録画映像では、鉄製の扉をこじ開けたあと、バッテリーなどの金目の部品を持ち去る人物が映っていました。付近の住民によると、ストリート・テイクオーバーは「二日おき」程度の日常茶飯事で、LAPDが積極的に取り締まりに乗り出していた様子はなかったと苦情だらけのようです。

 この地区の店舗では万引きが茶飯事で、盗難が絶えないために、さまざまな対策をとっているのですが、一部の店では、ボディー・カメラを装着させるところもあります。ボディ-・カメラは、アメリカでは、犯罪の捜査にあたる現場の警察官が着用している姿がテレビ・ニュースで映し出される場面が目に付きますが、大手衣料チェーンのTJマックスやマーシャルズやホームグッズといった店舗では、これを店員に装着させているとのこと。そのような目立つカメラを胸部に装着した姿の店員を店内に配置、買い物客との対応に当たらせることで、それ自体が万引き防止への“抑制効果”となるのを期待しているわけです。

 また万引きの多い店舗では、買い物客の目に付きやすい店内各所の壁や天井、キャッシュレジスターの設置場所などに監視カメラを設置していますが、そんな厳重な万引き防止装置が“必需品”となっているほどの“病める”アメリカ社会の病根を絶つのは難しいというのが現状のようです。
 
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(6/12/2024)

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