“分裂国家”の様相強まるアメリカ=新たな南北戦争の恐れも=

 

アメリカ101 第115回

 

このコラムで、この表現を使うのは2度目ですが、やはり、その感じを伝えるには最適と思われるので、再使用するのですが、「2024年大統領選挙後の混乱で、『第二次南北戦争』の火ぶたが切られる」という「オドロオドロシイ」というか、大げさと思えるような事態さえ予言する著作の前評判が拡散しています。

 

1861年から1865年にかけて、奴隷制度の廃絶をめぐる北部諸州と南部諸州の対立から、南部11州が合衆国から分離を宣言、北部23州との間での軍事対決となったのが南北戦争です。アメリカでは通常「内戦」(Civil war)と呼ばれ、推定60万人から70万人の戦死者/犠牲者が出たという悪夢のような戦争です。さすがに、それと同規模の武力対決がアメリカ国内で発生するとは考えられませんが、ワクチン接種から「トランプ再選論」まで、さまざま争点でアメリカ市民の間での対立が激化する中、南北戦争と同様に、文字通り国家を二分する武力衝突の可能性が真剣に論じられる風潮が当たり前となっているという厳しい状況に直面しているアメリカを象徴するような議論です。

 

話題の著書は、来年1月に出版予定の「いかに内戦が始まるか」(How Civil Wars Start)とのタイトルで、筆者はカリフォルニア大学サンディエゴ校のバーバラ・F・ウォルター教授(政治学専攻)。教鞭をとるだけでなく、CIA(中央情報局)傘下の諮問委員会「政治的安定性に関するタスクフォース」のメンバーです。政治不安を抱える国々での武力衝突の可能性でCIAに助言するのが目的で、同教授自身は シリア、レバノン、北アイルランド、スリランカなど歴史的な国内対立を抱える国々の武力衝突へのメカニズムを長年研究してきた人物です。

 

CIAは国家安全保障の関連から海外情報を収集する組織で、本来は自国であるアメリカの国内治安状況などは対象外です。だが今回ウォルター教授は、いかに国内対立が武力衝突/内戦に発展するかの研究手法をアメリカに当てはめた結果を著したもの。この新著の内容は、同教授の長年の友人であるワシントン・ポスト紙のデーナ・ミルバンク氏が自らのコラムで紹介して話題となっています。

 

同教授の結論は「われわれ誰もが信じたくない内戦という事態に近づいている」というものです。トランプ政権誕生で高まったアメリカ国内での分断状況が悪化を続けており、「トランプ再選」を疑わない暴徒が今年1月6日にワシントンの連邦議会議事堂に乱入、狼藉を働いた議会襲撃事件や、新型ウイルス予防接種という、党派性とは無関係な医学的な観点からの措置についても絶対反対の声を上げ、「大きな政府」への嫌悪感から「政府の陰謀」であるとして拒絶する人々が共和党支持者の間では過半数にも達するという対立の構図を分析。そして、いまや内戦に向けて「極めて危険な境域に入った」としています。すでに「反政府活動」(pre-insurgency)、「初期紛争」(incipient conflict)という段階を経て、今や「オープンな紛争」(open conflict)にまで達した可能性もあると指摘。アメリカは民主主義と独裁体制の狭間である「アノクラシー(無支配体制)「anocracy」に漂っていると論じています。

 

そして、2024年の次期大統領選挙にドナルド・トランプ氏が再出馬し、再度敗北するというシナリオがあるとすれば、その後に、議会乱入の「1月6日事件」を上回る武力反乱をイメージするのは困難ではないという、このコラムの冒頭の展開さえ予想されるというわけです。「仮定」が重なる事態でしょうが、単なる「閑談」(idle talk)や「床屋談義」に終わることを切に願うだけです。

 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(12/21/2021)

 

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