トランプ暗殺未遂事件 “銃社会アメリカ”の厳しい状況

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アメリカ101 第239回

. 「アメリカに暴力の居場所はない」という格好良い発言をしたのはジョー・バイデン大統領。7月13日夕刻にペンシルベニア州バトラーで開催された、11月の大統領選挙に向けたドナルド・トランプ前大統領支援の政治集会での銃撃事件を受けての声明の文言です。毎回、この種の銃撃事件が発生、多くの死傷者が出ると、われわれ在米外国人にとっては、毎度「笑わせちゃいけないヨ」と茶々を入れたくなるような、事態の重大さに欠けた、繰り返し聞かされてきた“ご託宣”といった感じの反応です。“銃社会アメリカ”を抱える国家の指導者として、できるのは、この程度の「遺憾の意」でしかない“国情”とあれば、仕方ないということでしょうか。

 トランプが演壇で熱弁を奮っている最中に、その頭部を狙った銃弾が右耳の上部をかすめ、負傷した暗殺未遂事件。集会に参加していた聴衆の1人が死亡、2人が重体というmass shooting(銃撃大量殺傷)事件ですが、幸い本人は軽傷で、週明けの15日に、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開幕した正副大統領の候補を指名する共和党全国大会に、傷口を覆った姿で元気な姿を見せ、大歓声で迎えられました。

 アメリカでの銃撃による殺人事件は年間ほぼ2万件に達しているのですが、そのうちmass shootingと分類される銃器による大量殺傷件数は600件です。この種の統計は公益財団であるGun Violence Archive(GVA=銃器暴力文書館)の集計によるもので、今年については6月末まで速報値として発表されています。

 それによると、1月が47件、死者100人、負傷者124人から始まって、毎月30件から50件を前後しているのですが、夏場になると夏休み、酷暑などの要因で急増する毎年のパターンで、最新の6月分では、mass shootingは77件を記録、死者77人、負傷者380人と報告されています。

 そして7月13日のトランプ暗殺未遂事件と同日には、コネチカット州ニューヘーブン、アラバマ州バーミンガムの2カ所で死者4人、負傷者18人を記録するなどのmass shooting事件が次々に発生。14日にはミシシッピ州ホーリースプリングスでは、通報で訪れた警官が、住宅の駐車中の乗用車内で3人、ドライブウェイで1人の計4人の死体を発見し、イリノイ州シカゴ南郊では4人が集まっていた場所で、何者かが銃を乱射、全員が死亡といった事件がありました。

 トランプ暗殺未遂事件以後、15日までの3日間で報告されている6件のmass shootingによる死者は合計9人、負傷者29人という有様で。6月全体では77件、死者72人、負傷者380人となっており、mass shootingが報告されてない日数はわずか7日間という、“銃社会アメリカ”の厳しい状況を窺うことのできる数字となっています。
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(7/17/2024)

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