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アメリカ101 第237回
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「なかなか真っ当な意見を言うんだな」と受け取るか、あるいは「例によってウソ発言の常習者のたわごと(戯言)」「選挙目当ての話題作り」と切り捨てるかの判断は別として、とにかく、ホワイトハウスへの返り咲きを狙うドナルド・トランプが(再選の暁には)「アメリカの大学を卒業した外国人にはグリーンカード(永住権)を自動的に付与すべきだ」と発言したのは間違いないようです。
ニューヨーク・タイムズ紙やAP通信によると、トランプは6月20日に収録されたベンチャーキャピタリストなどハイテク業界関係者とのポッドキャスト「All-In」でのインタビューで、「私はアメリカの大学を卒業した人々に自動的にグリーンカード(永住権証明)を与えるのを望み、(大統領再選の折には自身が)供与する」と語ったとのこと。これには4年制大学だけではなく、2年制短大(カレッジ)の卒業生も含まれます。
グリーンカードは、さまざまな理由でアメリカに長期滞在する人々にとって“貴重品”で、その取得によって長期的な人生設計の本格的に取り組むことができるなど、アメリカ在住者にとっては必需品。そしてアメリカへの帰化(国籍取得)への第一歩となるもので、厳重な資格検査が行われます。だがトランプは2017年の大統領選挙で当選するまで、そして当選後も、「緩い移民制度のせいで、その悪用によりアメリカを食いものとする不正な動機でアメリカ入りする外国人が絶えない」という、“外国人排斥”色の濃い移民政策を打ち出し、2017年1月の大統領就任初日にイスラム教徒が多数を占める国々からのアメリカ入国規制を強化する強硬政策を大統領命令で制定するなど、「内向き」の姿勢を強めていました。
たとえばトランプが移民問題で“目の敵”としてきた「H-1B」ビザの扱いが、その典型です。このビザは特殊技能を有する職業に従事する人々向けのビザで、会計士や財務専門家、コンピュータグラマーなどがアメリカで専門分野で働くために発給されるもので、アメリカ国内の企業、とくにハイテク企業による外国人労働者受け入れに使われてきました。しかしトランプは、これによりアメリカに熟練技術者として入国した人々を「アメリカが誇る繁栄を狙った盗人」などと唾棄。さらに政権末期になってからの新型コロナウイルス感染禍では、外国人の合法的な入国にも制限を強化しただけでなく、政権最後の年には、移民受け入れの全面停止や、留学生が実際に授業に出席したかどうか、その出席率を基準に国外退去させる計画も打ち出していました。
そしてトランプは2020年の前回の大統領選挙直前には、再び「H-1B」ビザ発給制限に動き出しており、「移民国家アメリカ」の大統領に相応しくない「移民嫌い大統領」の一面をあからさまにしていました。
これに対して2020年の大統領選挙で、現職のトランプを破って当選したジョー・バイデン現大統領は、トランプ時代の“反移民色の濃い”一連の法規を破棄するなど是正路線を採用していますが、メキシコとの国境を越境入国する非合法移民の流入対策に苦慮しており、移民に寛容な姿勢を持続するのが難しくなっています。今回のトランプの「アメリカの大学を卒業した留学生にはグリーンカードを」という発言は、移民問題が何よりも党派間の政争として存在するアメリカの現状を映したものと言えそうです。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(7/2/2024)