【夏休み特集】 8月、原爆について考えてみよう

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【夏休み特集】8月、原爆について考えてみよう

. 南カリフォルニアの夏は、サンタモニカ湾やベンチュラ、サンタバーバラなどの沿岸部では比較的過ごしやすいものの、内陸部にかけては、もちろん暑い日々が続き、9月初めのレーバーデー明けまでは、全体としてスロースペースで毎日が過ぎていくという印象が強いのに対して、日本では、甲子園での高校野球の全国大会の熱戦が繰り広げられ、広島、長崎の原爆投下記念日、そして15日の終戦記念日といった、さまざまな思い・感慨を引き起こす「夏の思い出」の日々が続きます。

 個人的には、終戦後の昭和20年代後半から同30年代半ばにかけての小学生時代には、夏休みには、当時住んでいた東京・杉並区内の借家から、両親の故郷である愛知県尾張地方の、農業を営む田舎の実家で過ごした「夏の思い出」が懐かしい日々です。

 戦争が終わってから続く厳しい食糧難事情のため、大都市では、郊外の農家へのコメや野菜の買い出しが当たり前でした。当時はコメは食糧管理法に基づく配給制であり、農家から直接購入するのは非合法の「闇米」取り引きであったのですが、食い盛りの4人の子どもを養っていた父親は、本来であれば率先して模範となるべき国家公務員であるにもかかわらず、背に腹は代えられないということで、週末には、リュックサックを背負って、しばしば埼玉方面に闇米の買い出しに出掛けていました。しかし一方では、東京のある裁判官が、厳格に食糧管理法に沿った配給食糧のみを口にするだけという食生活を続けて、栄養失調で餓死したというニュースが話題になったのも、その頃のことでした。そして夏休み中には、白米のみならず、野菜や鶏肉などが手にはいる農家ので十分な栄養を補給するようにとの両親の思いで、2歳違いの弟と2人で東海道本線の準急列車で何回か往復した記憶があります。

 まだ東海道線の全線電化以前のことで、浜松までは電気機関車が列車を牽引し、浜松以降は蒸気機関車に引かれた列車で尾張一宮駅まで行き、そこで名鉄尾西線というローカル路線に乗り換えて、両親の実家に向かったものです。

 早めに東京駅に行き、車内で着席できるように列車待ちの行列に加わり、まる1日がかりの旅程で、麦飯のおにぎりを食べながらの長旅でした。ローカル線に乗り換えると、途端に乗客たちが口にしているのが、“悪名高い”名古屋弁ばかりとあって、遥々遠くまで来たものだという思いをしたものです。

 当時の自宅最寄り駅である中央線の阿佐ヶ谷駅で、目的地の切符を購入するのですが、目的地が私鉄ローカル線の小さな駅とあって、目的駅名を印刷した既成の切符はなく、駅窓口の係員が手書きで駅名を記した切符を手にしたのを鮮明に記憶しています。

 夏休み滞在中は、数駅しか離れていない両親の、それぞれの実家に滞在したのですが、いとこ5-6人が同居していた大家族の父方の実家では居心地が悪く、敬遠気味で、一か月のうちに儀礼的に数回訪れるのにとどまり、もっぱら6,7歳ほど年上の叔父がいた母方の実家に滞在し、すぐ近くを流れる庄内川で泳ぐ毎日でした。

 「夏の思い出」といえば、学生時代のアルバイトとして、当時日本で毎年夏に大々的に開催されていた原水爆禁止日本協議会(原水協)主催の世界大会で、国際部の庶務係兼英語通訳をしたのも懐かしく思い出されます。主としてアメリカ代表団の世話係で、ソ連に対抗して原水爆開発・増産に力を入れていた政府に反旗を掲げていたアメリカ進歩派の指導的立場にある人々の知遇を得るという特典付きでした。

 アテンドした人の中で、今に至るまでも、とくに記憶に残っているのは、マーチン・ルーサー・キング牧師が「史上最も偉大な伝道師」と呼んでいたC・T・ビビアン牧師(黒人)です。キング牧師の右腕といわれた長身の温厚な人物で、命をかけて黒人の地位向上のため運動を続け、2020年に95歳で往生したのですが、アメリカの公民権運動がどのような人柄の人物によって運営されているかを垣間みるという貴重な経験でした。

 以上が、自分なりの「夏の思い出」の一部ですが、それに関連するような映画が、現在ロサンゼルス公立図書館(LAPL)のネットを通じて視聴できるので、紹介します。

 ひとつは、2016年に公開された日本の長編アニメ映画「この世界の片隅に」(英語版タイトルは「In This Corner of the World」)です。同名のこうの史代の漫画が原作の大ヒット作で、広島への原爆投下を含む終戦時に生きた18歳のすずをめぐる物語です。第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位に選ばれた名作で、ロサンゼルス公立図書館のホームページ(LAPL)から「Movies, TV &Video」欄の「hoopla digital」をクリックし、この英語タイトルで検索するとアクセスできます。視聴者の5つ星評価で満点という作品で、日本語版ですが、英語のサブタイトルが付いています。

 あらすじは、1944年2月に、すずが広島から軍港として知られる呉の北条家という家に嫁いだあと、空襲や、広島への原爆投下を経験する物語で、終戦後も呉を居場所とすることを決めて、生きていくというストーリーです。

 もうひとつは、アメリカの長編ドキュメンタリー映画「Oppenheimer:The Real Story」(1時間34分)(2023年)です。ニューヨーク・マンハッタンの豪華なアパートに住む裕福な家族に生まれ、「原爆の父」と呼ばれたJ・ロバート・オッペンハイマーの正統的な伝記映画。ガイ・バードとマーティン・J・シャーウィンの共著「The American Prometheus:The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer」(2005)(邦訳:オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇 2007年刊)に基づいたものです。今年3月の第96回アカデミー賞授賞式で、作品賞、監督賞、主演男優賞など最多の7部門で受賞した、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」製作にもインスピレーションを与えたといわれています。

 LAPLの利用者向けサービスについては、これまでも数回に分けて取り上げてきましたが、新型コロナウイルス感染拡大で、外出自粛が求められるようになったのを受けて、オンラインでの利用範囲を大幅に拡大しており、映画やテレビ作品、そして電子ブックへのアクセスが大幅に改善されており、時間があれば、じっくり探索する価値があるでしょう。

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(7/17/2024)

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