米国で話題 怪物文書『Project 2025 』

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アメリカ101 第238回

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 歴史的な文書であるカール・マルクスとフレードリヒ・エンゲルスの手になる共産党宣言の冒頭を模すれば、「一個の怪物がアメリカを徘徊している。『アメリカにプロジェクト2025を』(Project 2025 )という怪物が」ということになるでしょうか。11月5日が投票日の今回のアメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプ前大統領が再選となれば、アメリカがどのように変貌するかをうかがわせる文書として流布されている全文900ページの文書のタイトルです。
 

 アメリカの有力なシンクタンクと知られるヘリテージ財団が、100を超える保守系政治団体からの提言をまとめたもので、トランプ再選に伴う新政権での青写真を描く一連の保守系シンクタンクの文書のひとつ。トランプ自身は、「そんなものは何にも知らない」としているものの、文書作成に加わった主要な人物には、ドランプ政権時代に行政管理予算局(OMB)などの政府機関に加わっており、「トランプ・ドクトリン」の基礎文書だとの見方もあって、注目を浴びています。
 

 この文書では、プロジェクトの狙いや目的として以下の4項目をあげています。①アメリカの日常生活での中心が家族であるとの価値観の回復②行政主体国家の解体③主権・国境の防衛④自由に生きるために神が与えた個人の権利の確保で、これらの方向性を記した文書の一部には「課題47」(Agenda47)とのタイトルが付されています。その由来は、トランプが再選されれば第47代大統領となるのにちなんで命名されたとのこと。
 

 提言は政治、移民、経済などの各分野のまたがっており、「政府部門」では、司法、行政、立法といった三権に関わるすべての各省庁の官僚制度を大統領の直轄管理下に置くという「単一行政理論」を採用しています。これによる大統領は広範囲な行政面での決定権を有することになり、連邦政府職員の多くが、身分保障のない政治任用ポストで働くことになるようです。また連邦政府組織として抜群の知名度と存在感がある連邦捜査局(FBI)について、「肥大化した傲慢な、無法色が濃くなった組織」と決めつけ、その抜本的な改革を求め、教育問題は各州の権限として、連邦教育省の廃止を求めています。
 

 大きな社会問題である移民問題では、メキシコとの国境沿いでの壁構築向けの予算の大幅増額や移民関係の連邦政府機関の統合と権限拡大を提言。さらに合法的な移民についても、手数料の値上げや、追加手数料を支払えば、手続きの迅速化を図るという提案も書き込まれているようです。
 

 政治問題化している人工妊娠中絶では、全米規模の中絶禁止措置は含まれていないものの、経口妊娠人工中絶ピル、ミフェプリストンの販売停止を提言。異常気象変動では、再生可能エネルギーに関する研究や投資の削減を求める一方、「石油や天然ガスへの戦争の停止」を進言しています。
 

 これに対して民主党陣営からは、「われわれの民主的な機関の解体を進めているディストピア(暗黒郷)への動きだ」という反発の声が高まっており、カリフォルニア州選出のジャレッド・ハフマン連邦下院議員は「ストップ・プロジェクト2025タスクフォース」を立ち上げるなど、反対運動や法的判断を求める訴訟が展開される見通しで、共和、民主両党の党を挙げての対決となるようです。
 
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(7/10/2024)

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