初代大統領ジョージ・ワシントンから第60回目という節目

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アメリカ101 第227回

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 アメリカでは独立以来4年ごとに大統領選挙を実施してきましたが、今年11月5日が投票日の今回の選挙は、初代大統領ジョージ・ワシントンを選出して以来第60回目という節目にあたります。民主、共和という2大政党の候補者がホワイトハウス入りを目指すわけですが、今回は、従来であれば“泡沫候補”だとして、選挙の最終結果を左右する要因ではないとみられてきた「第三の候補」(third-party candidate)、あるいは「無党派候補」(independent candidate)と呼ばれる、2大政党以外の候補者の存在が選挙結果を左右するほどの影響力を発揮するのではないかという見方が強まっており、近年の大統領選挙とは異なった展開が予想されています。
 
 現時点では、民主党からは現職のジョー・バイデン大統領、野党・共和党からは、ホワイトハウス奪回を狙うドナルド・トランプ前大統領が、それぞれの政党の候補として指名されるのは確実ですが、有権者の間での2大政党に属する既成政治家への幻滅感の強まりを示す数字が目立ちます。
 
 たとえばクイニアピアック大学の今年の世論調査によると、通常の2大政党の大統領候補者2人をめぐる調査ではなく、5人の候補を列記した調査では、バイデン、トランプ両氏以外の候補者を選んだ回答が20%に達したとのこと。具体的には、ロバート・ケネディ・ジュニア(ジョン・F.ケネディ大統領の弟で司法長官だったロバート・ケネディの息子)を選んだのが13%、「緑の党」(Green Party)の大統領候補ジル・ステインが4%、大学教授で黒人のコーネル・ウェストが3%となっています。今後選挙戦が本格化し、投票日が接近するに伴い、これらの「第三の候補」への支持は縮小するのは避けられないのですが、専門家によると、たとえ1桁台の支持率に低下したとしても、キャスティング・ボートとして、選挙結果を左右する可能性はあるとのこと。
 
 2大政党のうちで、「第三の候補」としてのロバート・ケネディ・ジュニアの存在を懸念するのは民主党です。というのも、トランプについては共和党内では絶大な、熱狂的ともいえる支持者が多く、「ケネディ」一族のメンバー対して浮動票を投じる向きはないのに対して、民主党については、同党内では「ケネディ」一族の名前に魅かれる有権者がかなりの比率に上るとみられるからです。同党が今年8月下旬のシカゴでの全国党大会で、再選に向けてバイデン大統領を同党候補として正式に再指名するのは間違いありませんが、「第三の候補」としてロバート・ケネディ・ジュニアを擁立する動きが続き、本選挙に突入する場合には、ある程度の比率でバイデンに投じられるはずの民主党票がケネディに流れるのは避けられないと考えられます。
 
 民主党指導部が懸念するのは、たとえ少数の票であれ、ケネディ・ジュニアに民主党票が投じられるとすると、「バイデン敗北」というシナリオが浮かび上がってくるからです。
 
 2016年の大統領選挙では「緑の党」のジル・ステインが、「第三の候補」として6%の得票率を記録したのですが、その際に仮に、接戦州であったウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州でジル・ステイン票がすべて民主党候補のヒラリー・クリントンに投じられたとすれば、クリントンが初の女性大統領としてホワイトハウス入りを果たしていたという試算もあり、「第三の候補」の有無は大統領選挙では無視できません。
 
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/27/2024)

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