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アメリカ101 第233回
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このところアメリカは、今年11月5日が投票日の次期大統領選挙の渦中にありますが、これまでの選挙と大きく違う点が浮き彫りとなっています。それは、実際に投票が行われる以前から、“不正選挙”をめぐる議論が激しくなっており、民主主義の根幹である選挙そのものに対する信頼感が薄れ、「有権者の意向を反映する」とされる選挙結果への疑問を呈する向きが増え、無条件で「選挙結果」を受け入れることに難色政治家の発言が大きく報道されるという“世界に冠たる民主主義国家アメリカの危機”が表面化しているからです。
「有権者の投票による選挙結果を厳粛に受け止め、そこに示された民意を政治に反映する」というのが民主国家のあり方です。だが今回は、選挙が実施される以前から、その公正さへの疑問をあからさまに口にし、「選挙結果を受け入れるか」という質問に、「it depends」(状況や場合次第だ)、「ケース・バイ・ケースだ」と答える政治家が、アメリカの二大政党の一方である共和党の最高指導者で、ホワイトハウス返り咲きを狙うドナルド・トランプと、その周辺を取り巻く同党の有力政治家たちです。
これまでのアメリカの大統領選挙では、二大政党が党挙げて不正選挙に乗り出したケースはありません。選挙結果如何にかかわらず、その結果を受け入れるかどうかといった設問自体がナンセンスだったのです。ところが今回は例外で、ストレートに「勿論だ。当然受け入れる」といった答えではなく、「ケース・バイ・ケース」との答えが当たり前となっています。
例えば、トランプとコンビを組む副大統領候補として有力視されるティム・スコット上院議員(サウスカロライナ州選出)は、最近のNBCテレビとのインタビューで、今回の選挙について、共和党候補が再選を狙う民主党のジョー.バイデン大統領に敗北した場合、「その結果を受け入れるか」との繰り返しの問いに対して、8回にわたり繰り返しはぐらかし、「トランプが勝利する」との予想をオウム返しする有様。最後には「そのような仮定の質問にはお答えるするわけにはいかない」と反応し、「受け入れる」という言質を与えるのを執拗に回避したのは、敗北した場合の選択肢を残す狙いがうかがえます。
トランプ自身は、選挙結果の受け入れについては、「フェアー(公正な)選挙」なら受け入れると言明しているものの、2020年の大統領選挙が「アンフェアー(不公正な)選挙」だったと決めつけ、「バイデン政権」の正当性に疑問を投げかけています。
また下院の共和党最高幹部で、下院議長のマイク・ジョンソンは今回の大統領選挙については、現行の法律に基づくものであれば、その結果を受け入れるべきだとしながらも、同時に選挙に不正があれば、すべての候補者は、適当な法的手続きに基づいて異議を提起する権利があるとも指摘して、連邦憲法の役割の重要性を強調する声明をニューヨーク・タイムズ紙に寄せています。さらに下院共和党幹部で女性としてトップ議員であり、トランプと組む副大統領候補への有力候補のひとりであるイリース・ステファニク(ニューヨーク州選出)は、一部の州での投票手続き改訂が憲法と整合性のあるものなら結果を受け入れるべきだと、ジョンソン議長に沿った立場を表明しています。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(5/29/2024)