アメリカ101 第75回
カリフォルニアとニューヨークというアメリカの二大ブルー・ステート(民主党が支配する州)の首長(州知事)が、任期を全うできるかどうかの境目にあります。カリフォルニア州のギャビン・ニューサムについては、第69回コラム「『夜の三ツ星レストラン』でイメージダウン」で取り上げましたが、そのリコール解任を求める住民投票が実施されるかどうかのヤマ場に差し掛かっています。そして他方のニューヨーク州知事アンドルー・クオモですが、昨年3月同州を直撃した新型コロナウイルス対策で、連日テレビ生放送で陣頭指揮をとる様子が伝えられ、対応に消極的だった当時のドナルド・トランプとの比較で、一躍メディアの寵児としてもてはやされました。だがこのところセクハラ告発が続き、高齢者養護施設での死者数を低めに発表した疑惑が浮上、八方ふさがり状態で、辞任は時間の問題という有様です。いずれも、順調にいけばホワイトハウス入りも視野に入るという政治家だっただけに、それぞれの政治生命に関心が寄せられています。
ニューサム知事は、コロナ禍での対応が後手に回り、しかも厳しい外出自粛規制を長期にわたり施行、レストランや商店、映画館、スポーツ・イベントなど、一般人が利用する施設への制限を必要以上に強化、長引かせたとして不興をかっていました。リコール運動は、コロナ禍以前に始められたもので、コロナ禍に便乗してリコール支持が勢いをつけています。前記のコラムで触れたように、ナパバレーにある世界的に有名なミシュラン三ツ星レストランで、自ら定めた自粛規制を破って友人と家族ぐるみで高級料理の会食に興じた事実が伝えられ、顰蹙を買いました。
最新のエマーソン大学による世論調査では、リコール投票が実施されれば、解任に賛成と答えた有権者が38%、反対が42%、未定が20%となっています。リコール投票実施には登録有権者の12%に相当する149万5709人に署名が必要で、3月17日が期限です。リコール運動主催者側の発表では、期限切れ1週間前の時点で集めた署名は206万人分で、無効署名を勘案しても必要数を上回ることは確実だとしています。
これまでニューサム知事は、リコール運動が共和党極右派が組織した根拠に欠けるもので、それにつきあう余裕はないとしてコロナ禍対策を先頭に、貧困対策、人種差別問題、環境問題など緊急課題に取り組む姿勢を前面に打ち出してきました。しかし予想を上回る署名が集まっていることに危機感を抱き、先週末から反撃キャンペーンを開始しています。今後は、集まった署名が有効であるかの審査が進められ、リコール投票実施の有無が決まる運びです。
一方のクオモ知事ですが、これまでに側近や支持者だった女性から、相次いで同知事によるセクハラや不適当な行動があったとする告発が続き、現在までに5人の女性が糾弾しています。クオモは、3期にわたり同州知事を務め、大統領選挙に出馬したこともあるマリオ・クオモの長男で、自身もビル・クリントン大統領の下で住宅都市開発長官を経験後、同州司法長官を経て、父親と同じ州知事となった政治家です。弟クリス・クオモはCNNのニュースアンカーです。また前妻ケリー・ケネディは、ジョン・ケネディ大統領の弟で司法長官を務め、大統領選挙中に凶弾に倒れたボビー・ケネディの娘で、一時は“ケネディ・クオモ政治王朝”誕生と噂されたこともあります。
今回のスキャンダルで名声は失墜、辞任を求める声が高まっていますが、15日にはジョー・バイデン大統領が「真相調査待ち」として辞任を求める考えのないことを明らかにして、一息ついたかたちであるものの、土俵際で爪先立ちでとどまっている感じです。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。