「不幸の様は異なっている」 日本の皇室、イギリス王室、ケネディ家

.

.

.

アメリカ101 第124回

.

それはさしずめ「幸せな家族はどれも同じようにみえるが、不幸な家族はそれぞれにその不幸の様は異なっているものだ」(レフ・トルストイ)ということでしょうか。日本の皇室、イギリス王室、そして一時は「アメリカの王朝(Dynasty)」と呼ばれたケネディ家の近況です。それぞれ小室圭、真子夫妻をめぐるゴタゴタ、エリザベス女王第三児で次男のアンドルー王子をめぐるスキャンダル、ジョン・F・ケネディ大統領(JFK)の甥ロバート・F・ケネディ・ジュニアの「タガの外れた」ワクチン接種反対運動のインフルエンサーとしての“活躍ぶり”です。  

.

古今東西の文学作品では、書き出しの部分が有名なものが数多くありますが、冒頭の引用句は、19世紀ロシアの文豪の代表作のひとつ「アンナ・カレーニナ」の幕開け最初のセンテンスです。政府高官夫人の若い貴族との不倫を描いたもので、英訳では「Happy families are all alike: every unhappy family is unhappy in its own way」といった感じです。上記の皇室などのケースでは「不幸」という日本語訳では行き過ぎで、「unhappy」は「幸せでない」といのが適当かと思いますが、いずれも当該家族が「心配している」というのは間違いありません。  

.

天皇陛下は62歳の誕生日(2月23日)に当たっての記者会見で、真子内親王の結婚に言及、「幸せな人生を歩んでいってほしいと思いますが、同時に、(中略)多くの方に心配をお掛けすることになったことを心苦しく思っています」と述べて、小室夫妻の結婚が必ずしもハッピーではなかったことを言外に認めておられました。どのような家族であれ、万事慶事ではないということでしょうか。  エリザベス女王の率いるイギリス王室も、1930年代後半の女王の伯父にあたるエドワード8世とアメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人との「王冠を賭けた恋」を先頭にアンハッピーな出来事が続きましたが、その“最新版”が第3子で次男のアンドルー王子をめぐるスキャンダルです。このコラムでは「アメリカの富豪とイギリス王室 未成年者性的虐待事件の真実」(第116回、2022年1月7日号)で取り上げ、「一段の苦境」にあるとして文章を閉じました。だが1月15日になって、それまでの、アメリカでの民事訴訟で全面否認して争う姿勢から一転、事実上虐待の事実を認める示談に応じる決着を選びました。女王の即位70年を一連の祝賀行事が目白押しの中、これ以上法廷で争うことは「王室にとって破滅的」(BBC)との判断が働いたものとみられています。  

.

ケネディ一家の“異端児”ロバート・ジュニアが一族にとって「嘆かわしい人物」「胸が張り裂けるような振る舞いの指導者」となっているのは、JFK以来民主党と一体視されてきた路線から外れて、新型コロナウイルスのワクチン接種反対運動の看板である「顔」となっているからです。アメリカでは一定の比率で、医療的な見地、そして「陰謀論」の一環としてワクチン拒否の態度をとる人々がいるわけですが、大部分は共和党極右グループ支持層と重なり合います。ところが、ロバート・ジュニアは、以前からワクチン接種全体に反対論を唱えてきたのに加え、コロナウイルス禍がきっかけで、著名なワクチン反対論者として、反対運動の活動家からは英雄扱いを受けるほどのインフルエンサーです。感染症の権威でバイデン大統領顧問を務めるアンソニー・ファウチに論戦を挑み、反対運動の看板として大規模集会での「人寄せパンダ」にまでなっています。さらには、1968年6月にロサンゼルス・ダウンタウンのアンバサダーホテルで父ロバート・ケネディ上院議員(元司法長官、JFKの弟)を暗殺、終身刑で服役中のサーハン・サーハンの仮釈放を唱えるなど一族とは袂を分かつ行動もあって、一族からひんしゅくをかっています。

.

.

アメリカ101をもっと読む

ホームに戻る


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/1/2021)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。