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アメリカ101 第198回
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痛々しいというか、見苦しいというか、あるいは恥ずかしいというか、見る人によってさまざまな反応があるかと思いますが、それは7月27日のアメリカ議会院内での、上院共和党トップであるミッチ・マコーネル院内総務(81)(共和、ケンタッキー州)の記者会見です。記者団からの質問に答えて、「string of a・・・」(一連の・・・)と言い淀んだあと、25秒にわたり凍り付いたように無言で立ち続け、周囲の同僚議員に支えられてその場を去ったという一連の流れで、自分の行動をコントロールできない状態にあるのは明らかでした。
そして、このところワシントン政界では、トップクラスの選良としての職務を遂行できるかどうかが疑問視される高齢議員の動静が注視の的となっており、昨年11月に80歳となり、来年の大統領選挙での再出馬を表明したジョー・バイデン大統領にも厳しい目が注がれています。
政治家の高齢化への懸念を表紙にしたのが、ニュース週刊誌「ザ・ウィーク」(The Week)の最新号(8月11日付)。「引退を拒否=アメリカはなぜ長老支配となったのか」(Refusing to retire=Why the U.S. is governed by a gerontocracy)との見出しで、議事堂を後ろにして、バイデン、マコーネル、そして、今年6月に90歳になった上院最長老のダイアン・ファインスタイン(民主、カリフォルニア州)が、それぞれ椅子や車椅子に座って看護師に血圧を測ってもらっているという構図です。
バイデンは関節炎を患っており、特有のぎこちない歩行は誰の目にも明らかで、転倒を繰り返しているのはよく知られているほか、意味不明の発言をするなど、老化が進んでいる兆候が明白です。マコーネルも、ことし3月にワシントンのホテルで夕食中に転倒し、脳震とうを起こし、数日間入院を余儀なくされています。
ファインスタインは、ことし2月から帯状疱疹で公務を休止し、5月に議会に復帰したものの、車いす生活を余儀なくされています。認知機能が大幅に低下しており、メディアとの接触はゼロ。そして議員活動は、演説はおろか、質疑などの場で発言することもなく、弱弱しい状態で登院しているだけという有様。長老議員といえば、共和党上院のチャールズ・グラスリー(アイオワ州)は現在89歳で、昨年の中間選挙で8期目の再選を果たしたばかりで、6年の任期を終えるのは95歳。このような超高齢者が多いために、上院議員の平均年齢は65歳に達しており、建国以来の上院の歴史で最高齢となっています。
このような上院議員の高齢化は、「ポトマック・フィーバー」(Potomac Fever)とも呼ばれています。首都ワシントンを流れるポトマック川に因んだ呼称で、現職議員が、その“居心地の良さ”をバネに再選を繰り返すのに伴う現象を指しています。例えば昨年の中間選挙では、再選を目指した上院議員がすべて勝利を果たしていますが、それぞれの議員の政治哲学や政策に基づく政治への熱意もあるものの、なによりも「権力の魅力」に取りつかれ、「自分がワシントンでは欠かせない政治家」という“熱病”に憑かれた議員が多いということでしょう。
ジョン・F・ケネディが大統領に就任したのは年齢43歳でしたが、バイデンが任期を全うするのはその2倍近い高齢です。このような数字を見ただけでも、アメリカでの政治家の若返りが必要という結論が導き出されるのは当然でしょう。因みに、与党民主党のポスト・バイデンの有力候補のひとりと目されるピート・ブティジェッチ運輸長官は41歳です。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(8/8/2023)