

筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信025
世界を振り回す!トランプ大統領の
「ブレまくり関税」劇場
「あんなに強気だったのに、どうして?」
そんな声が聞こえてきそうです。
先週、トランプ大統領が突然、発動したばかりの「相互関税」を90日間、停止すると発表しました。そのたった1週間前には、「アメリカの企業や労働者を『解放』するために、世界中からの輸入品にもっと関税をかける!」と宣言していたのに、急にブレーキをかけたのです。
それでもライバルである中国に対しては強硬姿勢を崩さず、追加関税をなんと145%にまで引き上げました。しかし、それも直後から”例外”が発表され、スマートフォンやパソコンなどの電子機器について一部の関税が免除されることになったのです。
このように、「出しては引っ込め」「強く言っては一部免除」と、目まぐるしく変わるのが現状です。まるで、その場その場で火消しをしているようにも見えます。
なぜ方針転換?
一部関税の停止を決めた理由については、株価の急落など「金融市場のパニックに焦った」というのが本音でしょう。特に、アメリカ経済の先行きを不安視した投資家が、最も安全な投資先ともいわれる米国債を一気に売り始めたのが引き金になったと考えられます。大統領自身も、人々が「取り乱した」「ビビってしまった」と語っています。
前回のコラムで私は、「経済指標に敏感だったはずのトランプ氏が、株価の下落にも動じず強行する姿勢からは、貿易の仕組みそのものを変えようという強い意志が感じられます」と書きました。しかし、良くも悪くも、市場の動きや世論を見て主張を変える「いつものトランプ大統領」だったということでしょう。「経済をめちゃくちゃにした大統領」として歴史に名を残したくないはずです。
傷ついた信頼
経済政策については、多くの国民から信頼を得ているトランプ大統領ですが、関税の影響次第で、その評価も変わるかもしれません。
経済にとって一番困るのは「先が見えないこと」です。企業は先を見越して設備投資や人材確保を進めますが、政策が数日で変わるようでは、何も決められません。もし「この関税は何年も続く」と経営者が信じれば、「外国で作っていた商品をアメリカで作ろう」と工場を建てる決断もできるでしょう。でも、わずか数日で方針をひっくり返されてしまっては、その信頼は崩れます。
そしてもうひとつ忘れてはいけないのが、「アメリカブランド」へのダメージです。高圧的な態度で関税をふっかけて、世界中の人々を怒らせれば、アメリカへの信頼にもひびが入ります。マクドナルドやスターバックスのような象徴的ブランドにまで、「もうアメリカのものは買いたくない」と感じる人が増えるのではないかと懸念されています。
こんな状況だからこそ冷静に
中国との貿易戦争も心配です。トランプ大統領に関税を引き上げられても、中国は全く譲りません。「やられたらやり返す」とばかりに、アメリカへの関税を引き上げました。景気の良くない中国ですが、「強いリーダー」として人気を得てきた習近平国家主席は「アメリカに押し切られた」と見られるわけにはいかないのです。
米中の関税合戦は、アメリカに住む私たちの暮らしにも影響を与えます。徐々に物価も上がっていくと予想されますが、かといって「今のうちに!」と焦っての「パニック買い」は避けるべきだと専門家は言います。いらないものは買わずに、必要なものだけを買う。先が見えない今の時代だからこそ、冷静さを忘れないようにしたいものです。
(4/18/2025)