「記念撮影」では終わらない ドジャースのホワイトハウス訪問

筆者・志村 朋哉

南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。

通信023
「記念撮影」では終わらない
ドジャースのホワイトハウス訪問

昨年のワールドシリーズを制したドジャースが、ワシントンに遠征中の4月7日にホワイトハウスを表敬訪問すると発表されました。アメリカでは、野球を含むメジャースポーツの優勝チームが大統領に招かれるというのは恒例行事です。大谷翔平選手も、この訪問に参加する予定だと述べています。

しかし、アメリカでは、こうした訪問が単なる「記念撮影」ではなく、政治的な意味合いを帯びることもあるため、賛否が分かれる可能性もあります。

ドジャースは、2021年のバイデン大統領時代にもホワイトハウスを訪問しました。しかし、今回のホワイトハウスで迎えるのは、過激な発言と政策で物議を醸すトランプ大統領です。トランプ氏の第1期目には、彼の差別的な言動に抗議して、ゴールデン・ステート・ウォーリアーズやフィラデルフィア・イーグルスなど複数のチームが訪問しませんでした。

メジャー屈指の人気を誇るムーキー・ベッツ選手は、2019年にレッドソックスの一員としてトランプ大統領に招待された時は参加しませんでした。ロサンゼルス・タイムズによると、今回は決めていないとのことで、家族と相談する必要があると話しています。

一方、以前は参加に消極的な発言をしたこともあるデーブ・ロバーツ監督は、「大統領という地位を尊重している」「招待は非常に名誉なこと」とコメントして、参加する意向を明らかにしました。

スポーツと政治
アメリカという国は、もともと「自由」や「平等」といった政治的な考え方を大切にして生まれた国です。だから、自分の意見をはっきり言うことは当たり前です。人種差別、移民問題、性差別、LGBTQの権利などの社会問題についてアスリートが声を上げることは珍しくありません。

NFLの選手が国家斉唱中にひざをついて黒人差別に抗議したり、スター選手が大統領の招待を拒否したりと、アスリートの言動が社会的議論を巻き起こしてきました。

一方、日本では、アスリートが政治的意見を公の場で語ることは滅多にありません。総理大臣など政治家による表彰も「名誉」や「祝福」の文脈で報じられるだけで、政治的意味合いを持つことはほとんどありません。「和を重んじる文化」や、「公共の場での政治的発言は控えるべき」という暗黙の了解があるからです。メディアの報道姿勢も政治とスポーツを意図的に切り離す傾向があり、記者がアスリートに社会問題についての意見を聞くこともありません。

日米で大きく異なる面です。
スーパースターの宿命
メジャーリーグの「顔」となった大谷選手がホワイトハウスを訪問することには、アメリカで大きな注目が集まります。もちろん、本人に政治的な意図はないかもしれません。しかし、アメリカ社会では「参加する・しない」という行動自体が、一つのメッセージとして解釈されることがあります。トランプ氏を嫌う人々は、大谷選手とトランプ氏の「記念撮影」を否定的に受け取るかもしれません。多様なアメリカでは、万人に愛されるというのは難しいのです。

アメリカでスーパースターになるということは、社会的な存在としての影響力や責任も伴います。すべてが“政治的”になるわけではありませんが、今回のように避けて通れない舞台が存在するのです。今後も大谷選手がスターの階段を駆け上がっていけば、こうした選択の場面は何度も訪れるはずです。

フィールド外のドジャースや大谷選手からも、目が離せません。

(4/3/2025)

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