

筆者・志村 朋哉
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南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信026
フランシスコ教皇が残したもの─
アメリカを揺るがせた12年のメッセージ
ローマ・カトリック教会のリーダーであるフランシスコ教皇が88歳で亡くなったというニュースが、世界中をかけめぐりました。中南米(アルゼンチン)出身として初めて教皇に選ばれたフランシスコさんは、「弱い立場の人に寄り添う教会にしたい」という思いで、12年間にわたって世界中に強いメッセージを送り続けてきました。
日本では、キリスト教徒は人口の1%ほどしかいないので、「教皇」という存在がピンとこない人も多いかもしれません。でも、アメリカでは事情が大きく異なります。成人の約5人に1人がカトリック信者で、政治家にもたくさんのカトリック信者がいます。たとえば、トランプ政権ではバンス副大統領、ルビオ国務長官など、閣僚の3人に1人以上がカトリックです。そのため、教皇の言動が社会や政治に大きな影響を与えるのです。
たとえば、教皇に就任してまもない2013年、同性愛の司祭について聞かれたとき、「私が裁く立場にあるでしょうか?」と答えたことは、多くのアメリカ人にとって大きな驚きでした。カトリックの伝統的な教えでは、同性愛行為は「罪」とされてきたからです。
アメリカ政治との関係
フランシスコ教皇は、ほかにも移民、気候変動、貧困などについて積極的に意見を発信してきました。こうした姿勢は、オバマ元大統領と価値観が近く、リベラルな人たちから支持されていました。2015年には連邦議会で演説を行い、民主党には「命の大切さ」を、共和党には「移民や環境問題にも目を向けてほしい」と呼びかけ、大きな反響を呼びました。
その一方で、「教えがあいまいだ」「伝統をこわしている」と反発する声も多くあがりました。アメリカのカトリック教会には、中絶反対や伝統的家族観などの保守的な価値観を重視する信者が多くいます。そうした司教や信者のあいだでは、教皇の姿勢に対して疑問を呈する動きも見られました。
また、トランプ氏が大統領になって、フランシスコ教皇との間には緊張が生まれました。特に移民問題では、「壁を築くことばかり考え、橋をかけることを考えない人は、キリスト教徒とは言えない」と教皇は発言し、メキシコ国境の壁建設を進めるトランプ大統領を批判しました。
こうした中で、リベラルな価値観を持つ信者と保守的な価値観を持つ信者の間で、フランシスコ教皇の評価は二極化するようになりました。フランシスコ教皇の登場で、カトリック内部でもアメリカ社会の政治的分断が表面化したといえるでしょう。
多様化するカトリック
アメリカでは、ヒスパニック系やアジア系の移民信者が年々増えています。教会では、スペイン語やタガログ語でのミサが行われたり、マリアッチ音楽を取り入れたミサも人気を集めたりしています。フランシスコ教皇の目指していた「すべての人に開かれた教会」に向かっているのかもしれません。
一方で、アメリカの若い司祭の多くが伝統的な教えを重視する傾向にあるというデータもあります。「現代社会は混乱しているからこそ、確固とした昔ながらの教えに立ち返るべきだ」と考える人も少なくないのです。
フランシスコ教皇が亡くなり、アメリカのカトリック教会は「伝統」と「改革」の間で揺れ動いています。次の教皇がどのような方向へ教会を導くのか、そしてそれがアメリカの社会にどのような影響を与えるのか、引き続き注目されるでしょう。
(4/23/2025)
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