初のアメリカ人教皇が誕生 その意味とは?

筆者・志村 朋哉

南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。

通信029
のアメリカ人教皇が誕生
その意味とは?

5月8日、バチカンで新しい教皇が選ばれました。名前はレオ14世。トップに立ったのは、アメリカ・シカゴ出身のロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿です。カトリックの長い歴史で、アメリカ人が教皇になるのは初めてのこと。宗教だけでなく、世界の政治や社会のあり方にも影響を与える、歴史的な出来事です。

カトリック教会には14億人近い信徒がいます。地球上の6人に1人が教皇の言葉に耳を傾けているということです。なので、教皇は移民、貧困、平和といった大きな課題について発言する「道徳的リーダー」として、各国の政治に影響を与えてきました。例えば、フランシスコ前教皇は地球環境を守る大切さを訴え、各国が地球温暖化対策に合意した「パリ協定」が成立する後押しになったとも言われています。さらに、カトリック教会は学校、病院、支援活動などを通じて世界中にネットワークがあるので、教皇の言葉は私たちの暮らしにも広く影響します。

では、なぜアメリカ人が選ばれたことが話題になっているのでしょうか?

アメリカは世界一の大国なので、教会がアメリカの政治に影響されているように見えることを、バチカンは避けてきたからです。でも今回、その常識が覆されました。

レオ14世が選ばれた理由は、彼の「国際的な経験」にあると言われています。若い頃から南米のペルーで長く活動し、貧しい人たちと一緒に暮らしてきました。英語だけでなく、スペイン語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語も話せます。「アメリカ出身」ではあっても、特定の国に偏らない「グローバルな視点」を持つ人物として評価されたのです。
アメリカにとっても、この出来事は大きな意味を持ちます。アメリカ人の5人に1人はカトリック信者。トランプ政権の閣僚の3人に1人以上、最高裁判事の3分の2もカトリックです。そして、中絶、同性婚、移民といったアメリカを大きく分断するトピックについて、カトリックの価値観は強い影響力を持っています。教皇の言葉が、こうした問題における道徳的な指針として受け止められることもあります。

レオ14世は就任後すぐ、AIの発展が「人間らしさ」や「働き方」に大きな影響を与えると警告しました。また、「お金持ちではなく、普通の人々と歩む」と語り、苦しむ人に寄り添う教会を目指すと述べました。この姿勢はフランシスコ前教皇と似ています。さらに、教会を聖職者中心の上下関係から、多様な声に耳を傾ける組織へと変える改革路線の継続をはっきりと打ち出しました。

新教皇が選ばれて、トランプ大統領は「アメリカの誇り」と歓迎のコメントを出しましたが、移民や弱者支援に前向きなレオ14世に、「また“左寄り”の教皇が現れた」と不満を持つ保守派もいます。

カトリックの教えというのは、共和党や民主党のどちらの主張とも完全には一致しません。中絶には反対でも、移民や環境問題には積極的です。だからアメリカでは「教皇は政治的にどちらの味方なの?」という議論が起きやすいのです。

しかし、レオ14世は、「アメリカ的な価値観」の体現者ではなく、国や立場を問わず、「どんな人でも尊重されるべきだ」という、すべての人に向けたキリスト教の本来のメッセージを世界に届けるリーダーとして登場しました。政治色を排し、声なき人の声に耳を傾ける姿勢を大切にしているように見えます。

その教皇が、アメリカに、そして世界に何を伝えていくのか。私たちも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

(5/15/2025)

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