筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信003
夢のワールドシリーズ!
大谷翔平はG.O.A.T.への階段を駆け登るか?
大谷翔平のドジャース移籍が決まった時に寄稿したあるコラムで、「ワールドシリーズで、『7億ドル男』の大谷とドジャースが、アーロン・ジャッジとフアン・ソト率いるニューヨーク・ヤンキースと東西対決なんてことになったら、WBCを超える熱を帯びる」と書きました。その「夢の対決」が、一年も立たないうちに現実となり、ロサンゼルスは熱狂の渦に包まれています。
全米のスポーツファンが、野球に注目するのは、ほぼポストシーズンに限られます。特にワールドシリーズは、スポーツにさほど興味がない人も見る一般のニュースでも取り上げられます。そこで1981年以来となるドジャース対ヤンキースと言う黄金のカードが実現するのは、メジャーリーグ関係者にとっては、願ったり叶ったりです。
近年のワールドシリーズは、視聴率が低迷しています。昨年は、レンジャーズ対ダイヤモンドバックスという地味なカードということもあり、1試合の平均視聴者数は史上最低の908万人でした。対照的に、1978年のヤンキース対ドジャースのワールドシリーズは、史上最高となる平均4428万人が視聴しました。
人々の興味が多様化した今の時代に、それだけの視聴者を集めるのは難しいですが、普段は野球に関心がない層にも興味を持ってもらいやすい点では、最高のカードといえるでしょう。
「運」も野球の魅力
ただし、野球には他のスポーツとは異なる不確実性があります。たとえば、バスケットボールやフットボールのポストシーズンでは、スター選手が試合の流れを左右する場面が多く見られます。レブロン・ジェームズが大量に得点したり、パトリック・マホームズが試合を決めるパスを見せたりするのが常です。
しかし、野球では打者の登場順が決まっているため、スター選手にチャンスが巡ってくるとは限りません。それに、実力のある選手でも、2、3試合でヒットが一本も出ないことはざらにあります。実際、ジャッジはポストシーズンで調子を崩しており、目立った活躍ができていません。
ワールドシリーズ第1戦で魅せたのは、フレディ・フリーマンでした。9月末に足首を怪我した影響でバットを振ることすらままならない時期もあったと言いますが、ワールドシリーズ史上初となるサヨナラ満塁ホームランを放ちました。この予測不可能な展開こそが野球の醍醐味なのです。
大谷はG.O.A.Tになれるか?
2021年以降の活躍で、大谷は現役最高選手の地位を確固たるものにしました。史上初となる「50-50」を達成したことで、スポーツトーク番組などでは、G.O.A.T. (Greatest of All Time、史上最高選手)ではないかとの議論すら盛んになってきました。バスケではマイケル、ジョーダン、フットボールではトム・ブレイディ、ホッケーではウェイン・グレツキーなどがG.O.A.T.だと言われています。
アメリカのスポーツ好きがG.O.A.T.の条件としてよく挙げるのが、圧倒的な成績に加えて、大舞台での活躍でチームを優勝に導く精神力です。実際、アメリカで長く語り継がれる名場面の多くがポストシーズンです。
しかし、先ほど述べたように、野球では不確実性が高いため、G.O.A.T.のハードルは高いと言えるかもしれません。それでも、数少ないチャンスをものにしてくれると期待させる魅力が大谷にはあります。第2戦に左肩を亜脱臼し、執筆時点では第3戦以降の出場は不透明です。しかし、そうした逆境を乗り越えて活躍することで、ファンはより心を動かされます。
このコラムが掲載される頃には、決着がついているかもしれません。大谷がワールドシリーズを制して、輝かしいキャリアの階段をまた一つ大きく登っているのか。全米が大谷フィーバーに包まれているのか。行方が楽しみでなりません。
(10/30/2024)