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筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信017
海外子育ては「親が与えられる最高の投資」
アメリカで子育てをしている方の中には、子どもが現地に馴染めるのか、また将来的に日本に戻った際に勉強についていけるのか、不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。私自身、小学校4年生と5年生の2年間をアメリカで過ごしました。現地校での初日、何が起こっているのか分からず、机の引き出しを覗き込んでいるふりをして涙を流したことを今でも覚えています。
しかし、その困難を乗り越えた経験は、私の人生で最大の財産になったといっても過言ではありません。アメリカの新聞社で唯一の日本人記者として働くことができたのも、この経験があったからこそです。
英語ができるようになったのはもちろんのこと、それ以上に世界中の人々と交流して仲良くなることの楽しさに魅了されました。その楽しさに目覚めたことで、日本に戻ってからも英語の勉強だけは一生懸命続けることができました。そして「いつかアメリカに戻りたい」「アメリカで勉強し、働きたい」という気持ちが心に根付き、大学では交換留学をして、さらにはアメリカの大学院に進学。その後、アメリカで仕事をする決意へとつながりました。
また、困難を乗り越えた経験は自信につながります。問題解決の力が養われ、「大抵のことはどうにかなる」というメンタルの強さが身に付きました。これは私だけではなく、帰国子女の多い高校に通った際、同級生の多くも同じような力を身につけていると感じました。彼らは総じてコミュニケーション能力や適応力、発想の柔軟性に優れていました。
そこで大切になるのが、「アメリカでしかできない経験をさせること」です。帰国後の勉強や受験が心配で、補習校に通わせる親も多いですが、私はできる限り現地の文化に触れさせることが重要だと考えています。放課後や週末を日本の勉強だけに費やすのではなく、現地の友達と英語を使って遊び、スポーツや音楽、芸術などの習い事などを通してアメリカならではの体験をすることが、最も価値のある時間になるのではないでしょうか。
私も放課後は、スクールバスに乗って、毎日のように友達の家に遊びに行っていました。父は、他の日本人家庭が子供を補習校に通わせている間、私や弟を野球やバスケ、サッカーなど様々なスポーツチームに入れて、自身もボランティアでコーチをするなど、最大限の努力をしてくれました。その結果、短い2年間の滞在でも、英語力は他の子どもと比べて格段に伸びたと実感しています。
日本での受験や就職においても、帰国子女は圧倒的に有利な立場にあります。大学受験においても、英語ができるだけで難関大学に入りやすくなるというのは知られた事実です。このようなメリットを最大限に生かすためにも、多少は日本語での勉強は犠牲にしてでも、現地でしか得られない体験を積むことが大切です。
近年、海外赴任を嫌がる親も増えていると聞きます。しかし、私からすれば、それは非常にもったいないことです。海外での経験は、子どもにとって「親が与えられる最高の投資のひとつ」だと考えています。私自身も、異国の地で英語や文化の違いに苦労しながらも、子供のために最高の環境を用意しようとしてくれた両親に感謝しています。
アメリカでの子育ては、不安や心配が尽きないかもしれません。しかし、それ以上に得られるものが多くあります。この素晴らしい機会を、ぜひ最大限に活かしてみてください。
(2/21/2025)