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飲酒運転で警察車両とカーチェイスをした後、アメリカ・ロサンゼルスで刑務所暮らしをすることになった日本人。
サム(仮)による一年間の服役実録記。
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自分のことを言えばであるが、実社会においても若い頃からそうだが組織に属するタイプではない。よく言えば一匹狼、悪く言えばひねくれ者か笑。とにかく日本にいた頃もここアメリカでも大工や料理人など割と職人気質的な仕事しかしてこなかった。
1〜2度、組織的な会社に身を置いた事はあるが、やはり生来からの持ち合わせの自由人気質というか何者にも縛られたくはない、自分のペースでしか生きられないという、例えて言うならキリギリス的な享楽主義が災いしてか、長く持った例はない。やはり実直なアリさんにはなれないのだ笑。
ただしそうだとからといって人付き合いが苦手なわけではない、むしろウサギさんではないが、孤独にさせると死んでしまうんではないかと言う位に、寂しがり屋で、楽しいことが大好きで、老若男女問わず、いろんな友達仲間とお酒を飲むのが大好きで…
まぁでも、よくよく考えてみれば組織にそぐわない、イコール縛られたくはない、イコール、ルールを守れない、…アリとキリギリスを例えに持ち出すまでもない単なる享楽主義者なのだ。
今ならわかるのだな。落ちるべくして刑務所まで落ちたんだなぁ。…って。
そしてこの刑務所内での自分の立ち位置もだが、自分の生来持ち合わせたこの気質が災いしてか、それとも功を奏してなのか、他の受刑者とはかなり違う立場に立つこととなったのである。
アメリカの刑務所と日本のそれとの根本的な違いとは懲役刑であるか禁錮刑であるかの違いに他ならない。
日本の場合、刑が確定したあとは刑務所に収監され様々な労役に着かなければならない。安い賃金で強制的に働かされる。まぁもちろん衣食住は全て国民皆様の収める税金から賄われてるわけだから、文句を言えた義理ではないのだが。
アメリカの場合身柄を拘束されて自由を奪われるだけであって、強制的な労役に着く必要はない。ただし、何かしら働きたいと言う意欲があり、刑務所側がその人間の資質を見てそれをオッケーした場合はその限りではない。つまり自分が希望して施設内の様々な雑事を行う労役につけば、刑期を短縮できるなどの特典がある事もある。
いずれにしてもアメリカの場合大概の人間はほとんどやることがないことになる、だから映画などでもよく見るようにみんな出所後に備えて体を鍛えたりするのだ。だから自分も毎日暇があれば(というか暇しかないのだが笑)せっせせっせと身体を鍛えていた。
ただ皆がジムや庭で持ち上げるような重い物やバーベルはもちろん無い。だから、自分が行なっていたのは自分の体を利用した自重トレーニングだ。腕立てに始まり、拳だけで体を支える拳立て伏せ、指だけでする指立て伏せ、懸垂や空手で言う所の形の様な動き、ボクシングで言うところのシャドーボクシングのようものだ。
これは相当目立ったらしく、最初のうちは遠巻きに眺めていた何人かの男が近づいてきて、その中のボス格のやつが俺に言うのだ。「お前は娑婆ではマーシャルアーツのコーチをしていたらしいな?ちょっとやって見せてみろよ」
内心驚きを隠せなかった。
いかにも、自分はこちらの格闘系のジムで武道の指導者をしてたのだが・・・
って言うか、コイツらどっから情報得てんだよ、
こーゆー社会っていうのは、言ってしまえばこの場限りの人間関係である。もちろんここで生き抜くためには、この中においての信頼関係を築く事は大事だが、コイツらの様に犯罪者仲間でない限りは外に出てまで彼奴らと付き合おうとは思わない。
したがって自分の身分がバレるような情報は絶対に口にしないほうがいいし、その点は自分も心得ていて自分の住まいや仕事に関する事は一切口にした事はなかった。だがしかし考えてみれば70人余りの荒くれの男たちが1つ部屋に暮らしていて、刑務所全体で言えば7000人である。誰かしら俺を見知ってる人間がいてもおかしくは無いのだ。
不自然に隠すのもよくないし、だからといってやって見せろと言われて、はいそうですかとやって見せるのも癪にさわる。だから俺は彼らに向かって言った。
「なんで俺がお前らにやって見せなきゃならんのだ、お前らに余興で見せるような代物じゃねぇんだよ!」と。
その瞬間周りが凍りついたように静かになった。
ボス格の男もその取り巻きもメンツを潰されたと考えたのか、凶暴な目つきで俺を睨んでくる。そして周りの人間も興味津々といった体で成り行きを見守っている。
こういった中ではもちろん喧嘩はご法度なのだが、他人が起こす諍いや揉め事は周りの人間にとっては絶好のイベントでありエンターテイメントなのだ笑。
しかしその連中が口を開く前に、間髪入れずに俺は行動に出た。
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(6/2/2022)
プロフィール
鹿児島県出身。国際結婚を果たしてラスベガスで生活したのち、ロサンゼルスに移住。
同コラムでは、犯してしまった犯罪とそれを償うための服役生活についてを明かすが、いたって普通の一般市民。二児の父であり、飲食業界に勤める。
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