アメリカで頑張るあなたへ―― 最後に伝えたいこと

筆者・志村 朋哉

南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。

通信038アメリカで頑張るあなたへ――
最後に伝えたいこと

このコラムは、「アメリカで頑張る日本人の役に少しでも立ちたい」という思いで始めました。「アメリカ人と対等に、堂々と渡り合える日本人が増えてほしい」──そんな願いを込めて。しかし、連載も今回で最終回となってしまいました。

正直なところ、日本人はこの国ではハンデを背負っています。でも、そのハンデの正体に気づいていない人が多い。だからこそ、現地メディアで数少ない日本人の記者としてアメリカ社会を見つめてきた立場から、最後にいくつかお伝えしたいことがあります。

現地の感覚に触れる
まず一つ目は、「日本の感覚を押しつけない」こと。似たような感覚を共有する人の多い日本で暮らしていると、自分たちの感覚が“正解”だと無意識に思いがちです。たとえば、「なぜアメリカ人はこんな味の濃いものを好むんだ」「日本の味の方が繊細で美味しいのに」。そう感じる方もいるでしょう。私も最初は“甘すぎる”アメリカのお菓子に首をかしげました。でもそれは、単に“好み”の違いにすぎません。
特に、日本の商品やサービスをアメリカで広げようと頑張る方々には、現地の生の声に耳を傾けてほしい。そうすれば、「なぜ日本のやり方にこだわり続ける企業がアメリカで成功できていないのか」が見えてくるし、チャンスにも気づくかもしれません。
では、どうすれば「日本の感覚」から抜け出せるのか。まず、日本人が日本人向けに発信しているメディアだけに頼るのをやめて、現地の人が現地の人向けに発信している情報に触れてみてください。いきなり英語を読むのは大変かもしれません。しかし、今はAIという強い味方がいます。わからないところはChatGPTなどに聞いてみる。それだけで、だいぶ世界が開けます。毎日ほんの少しでも英語の世界に触れていれば、自分の中の“当たり前”が少しずつアップデートされていくのを感じるはずです。

アメリカならではの体験を
二つ目は、子育てについて。多くの駐在員家庭が、帰国後のお子さんの受験や進路を心配する気持ちは理解できます。しかし、2〜5年という限られたアメリカ生活で、日本ばかりを見ているのはもったいないです。どっぷりと現地の生活に浸り、スポーツなどの習い事や様々なバックグラウンドを持つ友達との交流など、できる限りアメリカでしかできない経験をさせてあげてください。
英語力はもちろんのこと、自己主張ができる、多様性を尊重できる、常識に縛られないといった能力を身につけて帰国すれば、日本社会でも大きな強みになります。私自身、帰国子女として日本に戻った経験があります。当時はつらいこともありましたが、2年間のアメリカ生活なしに、今のジャーナリストとしての自分はなかったと断言できます。両親には感謝しかありません。
なので、子供を「守ってあげたい」という気持ちは分かりますが、ぜひ“荒波”に揉まれる経験もさせてあげてください。サマーキャンプに放り込んでみるとか、現地のスポーツチームに挑戦させてみるとか。最初は泣いてしまうかもしれません(私もそうでした)。でも、そこを乗り越えた子どもの顔は、きっと大人びて見えるはずです。
そして、まずは親御さん自身が現地社会に飛び込んでみてください。親が日本人同士で固まりすぎると、子どももそうなります。逆に、親が現地に馴染んでいけば、子どもも自然と変わっていきます。私も積極的に英語で話す両親の背中を見て勇気をもらいました。

最後に、アメリカで頑張っている全ての人へ。アメリカで暮らすのは楽ではありません。でも、得るものも本当に大きい。もがいてる最中はしんどいけれど、ふと「あの時の自分、頑張ったな」と思える日がきます。笑ったり、落ち込んだり、迷ったりしながら積み重ねた時間が、必ず私たちを助けてくれるはずです。

(8/1/2025)

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