

筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信031
なぜアメリカでは 軍人がこんなに尊敬されるのか?
5月最終月曜日の「メモリアルデー」が過ぎました。3連休にあたるこの時期、旅行に出かけたり、ショッピングモールでセールを楽しんだりと、多くの人が思い思いの休日を過ごされたのではないでしょうか。
でもこの祝日は、本来、戦争で命を落としたアメリカ軍の兵士たちに敬意を表し、追悼するための日です。日本でいえば、沖縄の「慰霊の日」や「終戦記念日」に近い、大切な意味を持っています。
全米各地では戦没者の墓地に小さな星条旗や花が並べられ、追悼式典やパレードが行われました。家の前に旗を掲げる家庭も多く、軍服姿の人に「Thank you for your service(ご奉仕ありがとうございます)」と声をかける光景も、街のあちこちで見かけます。
こうした敬意はメモリアルデーに限られたものではありません。アメリカでは、ふだんの生活の中でも軍人や退役軍人への敬意や感謝が自然に表れています。初めてこの文化に触れた日本人は、きっとその頻度とあたたかさに驚くはずです。たとえば、街で軍服を着た人を見かけると、まったく面識のない市民が「Thank you」と声をかけたり、握手を求めたりする場面があります。
飲食店や映画館、アパレルショップ、レンタカー会社などでは、military discount(軍人割引)と呼ばれる軍人やその家族への優遇が広く行われています。空港でも軍人は優先搭乗の対象になることが多く、アナウンスが流れると周囲から拍手が起こることさえあります。
スポーツイベントでも、試合前に軍人が紹介されると、観客が立ち上がって拍手を送ります。11月11日の「Veterans Day(退役軍人の日)」には、子どもたちが手紙を書いたり、地域の退役軍人を招いて感謝の気持ちを伝える催しが行われたりもします。
社会全体で「軍人を支える」という姿勢が根づいているのです。こうした文化の背景には、アメリカという国の成り立ちがあります。独立戦争や南北戦争、二度の世界大戦など、アメリカは「戦いによって自由と国家のかたちを勝ち取ってきた国」です。「自由は誰かが戦って守るもの」という考え方が根強くあり、その象徴として軍人が尊敬されているのです。
さらに、1973年以降は徴兵制が廃止されて志願制になったことで、「自ら望んで国に奉仕する」という行為への敬意も高まっています。共和党や民主党といった政治的立場にかかわらず、軍人に対する感謝の気持ちは国民の間で比較的一貫しています。
一方、日本では、戦後の平和憲法のもと、「軍事」に対して慎重な姿勢が続いています。第二次世界大戦中、日本では「国のために戦って死ぬことが美徳」とされ、国民全体が戦争を支持する空気のなかで教育や報道が行われていました。戦後はその過去を反省し、「あのような社会には戻らない」という思いが共有されるようになりました。その結果、「軍人」や「軍事」を肯定的に語ることがタブー視される傾向が続いています。
だからこそ、アメリカで見かける軍人への敬意の光景は、日本で育った私たちにとってとても印象的に映ります。その違いに目を向けた時、この国が大切にしている「自由」や「奉仕」や「責任」といった価値観が見えてくるでしょう。
(5/29/2025)








