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アメリカ101 第220回
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「グローバリストを排除する」というのが、今年のアメリカの大統領選挙で、ジョー・バイデン現大統領の再選阻止を目指す共和党にあって、大統領候補指名が確実視されるドナルド・トランプ前大統領が掲げる“公約”のひとつであり、その行く方が、アメリカが内向きの姿勢を強めるのかという観点から注目されています。
グローバリスト(globalists)とは、世界的な視野を入れたアメリカの役割の必要性を重視する立場をとる政治家を指し、盲目的にアメリカの利益のみ追求する、狭義な“アメリカ・ファースト”ではなく、世界的な指導力を発揮する国家としてのアメリカの責任を果たし、“世界に冠たる民主主義国家”であるべしという立場に与する超党派の政治家を指しています。近年の共和党では、神聖化に近い崇拝の的となっているロナルド・レーガンに加えてブッシュ親子、ボブ・ドール、ジョン・マケイン、ミット・ロムニーといった大統領・同候補経験者はいずれもグローバリストの呼称が相応しいといえます。
グローバリストとして有資格者かどうかの“踏み絵”がいくつかありますが、その一つが“移民国家”であるアメリカについての認識です。レーガンは大統領時代の演説で、「たとえ非合法に入国したとしても、アメリカに根を下ろし、生活している者に対して恩赦を与えるという考え方は正しいと信じている」と述べています。
さらには任期切れにあたっての最後の演説(1989年)でも、アメリカが世界にとって「丘に佇む輝ける街」(shining city on a hill)であるとし、そんな街に塀があるとすれば、「その塀には門戸があり、その門戸は、塀の内側に入りたいという意思とハート(heart)を有する、いかなる人々にも開かれている」と強調、移民歓迎の“国是”を誇らしげに掲げています。
これに対して昨今の政治家は、様変わりの認識です。共和党の大統領予備選から早々に撤退したフロリダ州知事ロン・デサンティスは、最初の予備選ディベートで、「わたしが大統領であれば、恩赦の対象となる不法入国者はゼロだ」とし、選挙戦を続ける元サウスカロライナ州知事ニッキー・ヘイリーも、「不法入国者は全員国外追放とせねばならない」と言明。トランプにいたっては、「グローバリストの排除」だけでなく、移民が「(アメリカの)血を毒する」ものと公言するほどです。
世界的な視野の欠如は通商問題でも顕著です。これも大統領時代のレーガンは、「大幅な不平等状態が存在するものの、それに対する答えは、アメリカ市場を閉じることではない」とし、パパ・ブッシュも1992年の大統領選挙戦の渦中にあっても、「アメリカの経済成長や拡大、技術革新にとってのカギは、常に自由な通商関係の維持だ」と述べています。
ところがトランプは昨年8月のテレビ番組フォックス・ビジネス・ネットワークとのインタビューで、輸入品への関税について聞かれたのに対して、「すべてのダンピングには10%の関税」を主張、大衆に迎合するポピュリズムの匂いが濃厚な、「関税といったものは素晴らしい(great)」といった発言で、関税の効用を指摘しています。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースの共同調査によると、近年共和党支持層には大きな変化が顕著で、大学教育を受けた白人有権者の比率が過去10年で40%から25%に減少するなど、教育水準の低い農村部での支持者が増えており、ポピュリズムに加え、国際化(globalization)への信頼度が減少していることから、「怒れる有権者」の発言力が強まっているのを覗うのが可能で、“トランプ旋風”も視野に浮かび上がりつつあるという構図も否定できません。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(2/6/2024)