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アメリカ101 第193回
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今のアメリカでは、究極的にはあらゆる分野で大きな影響を与える「6対3」という数字があります。日本では「憲法の番人」とも呼ばれる最高裁判所と同じような役割を演じている連邦最高裁判所での、長官以下9人の判事の、保守派多数、リベラル派少数という政治的色分けです。
最高裁は、近年のアメリカでの政治の分断状況の実態を反映して、これまでの判例からして、結果的には共和党に近い視点での憲法判断をする判事が6人を数えるという「保守的な法廷」といえます。それを如実に示した最高裁の2つの判決が6月末にあり、政治の世界に加えて司法の最高レベルでの政治的分断が2日連続で如実に露わになりました。そして、そのニュースの重要性を裏付けるように、アメリカ中のほぼすべての新聞が「banner headline」で記事を掲載しました。
アメリカの日刊新聞では日本と同様に、年間の10大ニュースに相当するトップクラスの「大ニュース」は当然ながら、新聞第一面に大きな見出しで報道されます。掲載記事が縦書きとなっている日本では、大きな活字を使って縦長に印刷された「大見出し」となるわけですが、最大級の大ニュースとなると、通常の縦書きの見出しに加え、「全面ぶち抜き」という横書き見出しも登場します。一方アメリカでは、大ニュースになるほど横書き見出しに使われる活字が大きくなり、邦字紙の「全面ぶち抜き」に相当するのが、「banner headline」なのです。いわば「横断幕級の見出し」というわけ。
そして6月末には、連邦最高裁が“主役”の大ニュースが2日連続で、このクラスの見出しで報道されるという珍しい出来事がありました。 まずは30日付の紙面で「banner headline」で報じられたのが、「大学入学選考の人種優遇に違憲判決」です。黒人などマイノリティの新入生の比率が、それぞれの全米の人口比率を大幅に下回っているという「格差」を是正するために、これらの新入生の選考で優遇措置を適用するという「アファーマティブ・アクション」(affirmative action、積極的差別是正措置)を採用するのは、憲法で保障された「平等保護」に反するとの「違憲判決」です。 翌日には、最高裁は今度は、バイデン政権による学生ローン債務の減免計画について、その根拠としている法律の権限を逸脱しているものとの「違憲判決」を下しました。これも各紙とも「banner headline」を駆使して大々的に報道しています。
学生ローンの債務返済が負担となっているのを軽減するために、2003年に施行となった「学生高等教育救済法」を援用した措置に関するもので、最高裁の判断は、これは、本来は戦争や国家非常事態を想定して制定された同法の適用外だというわけです。この減免計画の対象となるのは数千万人と推定されているほど、“利害関係者”が多いため、新聞でも、読者の関心を引き付けるのが狙いの「banner headline」を採用したということでしょう。
このふたつの判決はいずれも、全判事9人のうち多数意見組が6人、少数意見組が3人で、「全員一致」ではなく、「多数派」による判決でした。これは、最高裁判事の間での分断状態が“固定”してきているのを意味するもので、現時点での「保守派」がジョン・ロバーツ長官以下6人(うち女性ひとり)、「リベラル派」が3人(いずれも女性)という構成からすると、「保守派が支配する最高裁」という状況は当面続くとみられており、ジョー・バイデン大統領にとっては、現時点では最高裁は“鬼門”といえます。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(7/3/2023)