アメリカ101 第110回
今年1月に就任したジョー・バイデン大統領が、有権者による初めての審判となる中間選挙を1年後に控えて、厳しい状況に置かれています。その人気のほどを示す一連の世論調査では、支持率が過去数カ月下降傾向を続けているのに加えて、10年に一度の国勢調査による人口動態統計に基づく選挙区の区割り変更が共和党に有利な方向で進んでいるため、来年11月の中間選挙の目玉である連邦下院選挙で民主党が議席を失うのは確実です。そして、ダメージは次回の国勢調査まで続くことになり、単にバイデン政権の命運のみならず、民主党にとって長い“冬の季節”の到来を予感させるものとなっています。
その予感は、今月2日に行われた「オフ・イヤー(off year)選挙」の一環であるバージニア州知事選挙で、民主党候補のテリー・マコーリフ前知事が敗北したのが引き金でした。
バージニア州は2009年以来、州全体を1選挙区とする、大統領や州知事を選挙では、すべて民主党候補が勝利してきたという「ブルー州」です。2020年の大統領選挙でもバイデンが現職のドナルド・トランプ大統領に10ポイントの大差で勝利しています。ところが、この選挙で共和党候補の実業家グレン・ヤンキン氏が勝利。さらに別個の選挙である副知事選でも共和党のジャマイカ系黒人女性候補ウィンサム・シアーズ元州議会議員が当選、司法長官選挙でも同党候補が勝利して、共和党が“3冠”を実現させました。バイデンは接戦が伝えられて投票日前日に有居現地入りし、マコーリフ投票を呼び掛けたのですが、勝利を引き寄せることはできませんでした。
バイデンは11月に入ってからは、初の外遊としてヨーロッパでの一連の首脳会議に、コロナ禍にもかかわらず自ら現地に赴き、トランプ政権下で低下したアメリカの国際的指導力を再び発揮する国際舞台でのデビューを果たしました。そして目玉法案であるインフラ法案を成立させたことで、公約実現の成果を誇示できるはずでした。15日にホワイトハウスで行われた同法案署名式では、カマラ・ハリス副大統領、ナンシー・ペロシ下院議長、そして上院トップのチャック・シューマー民主党院内総務を従えて、文字通り満面の笑みをたたえてペンを手にしたのですが、このところの一連の世論調査では支持率が42・8%にとどまっています。政治風刺専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」(RCP)が集計した10近くの各種調査を総合した数字で、不支持率が51・6%と過半数に達しています。バイデン政権発足後数カ月は、支持率が10ポイントほど上回っていましたが、8月中旬を境に不支持率がオーバーするケースが常態化しています。
「バイデン人気」の陰りが鮮明となったのは、8月中旬のアフガニスタンからのアメリカ軍完全撤収が混乱のうちに終わったことでした。カブール空港に難民が押し寄せる模様が映像で繰り返し伝えられ、バイデン政権の不手際との印象を強めました。そして、世論調査での支持率低下を強めているのは、ガソリンや食品などの日常用品の値上がりという消費者を直撃するインフレの高進です。10日に発表となった10月のアメリカの消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同期比で6・2%に加速、上昇率が31年ぶりに6%台に達しました。このためバイデンはコロナ禍での落ち込みからの景気回復と物価抑制を最優先課題と位置付ける方針を明らかにしています。中間選挙では与党政権が下院議席を減らすのが通例で、第2次世界大戦後では、1998年のビル・クリントン政権(民主党)と2002年のブッシュ(子)政権(共和党)だけです。辛うじて8議席差で過半数の民主党が少数党に転落する可能性が高く、バイデンの苦境が続きます。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(11/19/2021)