ロサンゼルス一帯の治安悪化 新年早々「集団万引き」事件

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アメリカ101 第216回

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近年ロサンゼルス一帯の一部地域では、治安悪化状況の悪化から、「ストリート・テイクオーバー」(street takeover)と呼ばれる無法状態が現出しており、その混乱に応じて店舗の略奪に取り掛かるという、事前に周到な段取りをした「集団万引き」が珍しくありません。今年も新年早々、“悪名高い”コンプトン市内で、深夜に数十人の暴徒がベーカリーに押し入り、キャッシュレジスターを先頭に、商品などカネメのものを持ち去る事件が発生。ロサンゼルス郡警察(Sheriff’s  Department)によると、これまでのところ容疑者の特定など事件解明の手掛かりとなる情報はなく、治安悪化を印象付ける結果となっています。  

事件があったのは、同市内ノース・サンタフェ・アベニューに面したルーベンス・ベーカリー&メキシカン・(Ruben’s Bakery & Mexican Food)で、2日未明のこと。  

公開された監視カメラの動画では、まずホワイト色のトールワゴン型のサブコンパクト・カー「キア・ソウル」(起亜ソウル=Kia Soul)が後部から鉄製の防犯扉に繰り返し突進して破壊、そこから大勢が店内になだれ込み、キャッシュレジスターを手始めに、手当たり次第にカネメの物品を持ち去る様子が見て取れます。警察に通報があったのは午前3時25分。  

当時、店舗が面するサンタフェ・アベニューとエルセグンド・ブルバードの交差点では「ストリート・テイクオーバー」が進行中で、多くのクルマが集まってお祭り騒ぎだったとのこと。  

ストリート・テイクオーバーとは、空車状態の駐車場や空き地、そして交差点に若者が集まり、傍若無人にクルマを運転、拍手喝采を浴びるというスタント行為。特に観衆の歓声が集まるのが、ドーナツ(doughnuts)と呼ばれる、クルマの急回転でタイヤが焼け焦げて白煙を上げながら周回走行する運転や、ドアを開けたままで運転を続け、乗客がドアから乗り出し、屋根に登ったりといったゴーストライディング(ghostriding)です。  

1980年代に、オークランドを中心としたサンフランシスコ・ベイ・エリアのイースト・ベイで始まった“遊び”で、「サイドショー」(sideshow)と呼ばれたのですが、それが、コロナウイルス禍の終わりかけてからロサンゼルスに波及、「ストリート・テイクオーバー」となったもの。  

一時は自動車産業の中心地デトロイトだけでなく、カンザスシティやテキサス州でも流行したようですが、現在は、ロサンゼルス一帯では、依然としてコンプトンが南カリフォルニアでの「ストリート・テイクオーバー」の“本拠地”となっています。  

“発祥地”のオークランドでは、昨年6月に市議会が「サイドショー」を組織したり、発信・促進したりする行為を軽犯罪とする市条例を採択、有罪となれば管轄司法地域であるアラメダ郡刑務所での最高6か月の禁錮刑あるいは1000ドルから5000ドルの罰金となりました。  

しかしカリフォルニは州の法律では、物品の価格が950ドル以下の窃盗は軽犯罪扱いで、逮捕、取り調べ、起訴、裁判を経て有罪に至るプロセスからして、当局は「ストリート・テイクオーバー」を厳しく追求する価値がないといった対応で、余程のことがないかぎり、凶悪犯罪の捜査優先とのことのようです。

  

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(1/9/2024)

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