
第二十六回
日本は梅雨の季節
「あじさい」の語源をご存知ですか?
蛙の鳴き声が聞こえるようになり、私が住む街もようやく梅雨入りとなりました。梅雨の季節を迎えると毎年思い出すことがあります。
礼法の師匠の言葉、「雨の日こそ明るい色の着物を着るのよ」。
雨の日は、雨水の跳ね上がりを気にして、和装を控える人が多いのですが、私のような仕事は、雨だからといって、着物を着ないという訳にはいきません。その為、せめてもと、汚れても目立たない暗めの色の着物を着るようにしていました。そのような私の姿勢を見て、師匠は、「それは自分の都合ね。どうせ自分の服を見ていられるのは鏡の前だけ。ほとんどの時間は人が見て下さるもの。だったら、人が喜んで下さる服を選びなさい。雨の日は何もなくても億劫になりがち。だからこそ、明るい色の着物で人の気持ちを明るくして差し上げるのよ」と。師から「万事おもてなし」と教わったことも思い出します。「どんな時も、どなたに対しても、いつもおもてなし。ただ電車の車両が同じになっただけであってもよ」。
もし日本にお越しになることがあって、雨の日に明るい色の着物をご覧になりましたら、「おもてなしかしら」と思っていただけると嬉しく思います。
さて、日本では、梅雨と言えば「あじさい」。只今紫陽花が美しい季節を迎えています。その語源は「あづさい」と言われ、「あづ」は〔集まる〕の意味、「さい」は〔さあい(真藍)〕が転じた言葉で、〔藍色が集まったもの〕という意味があり、青い花が集まって咲く様子を表わした言葉とされています。漢字の「紫陽花」は、古代中国の詩人が別の紫色の花に名付けたものでしたが、平安時代の学者 源 順 があじさいに「紫陽花」の漢字を当てたことから誤って広まったと伝えられています。
紫陽花の名所は日本の各地に数多くあり、古より日本人に愛された花であることを感じます。
私のお薦めは、京都宇治の三室戸寺。約2万株の紫陽花が杉木立に沿って続き、まるで絵巻物のような美しい景色が広がります。

(6/20/2025)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com





