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第五十三回
扇ぐ扇子、挨拶に使う扇子
「礼儀作法の扇子」についてお話ししましょう
奈良時代(今から1300年ほど前)から使われている日本の伝統文化「扇子」。扇子は「扇ぐ為の物」とお思いではないでしょうか。実は扇子の用途は多く、伝統芸能の小道具、実用、装飾、縁起物、そして礼儀作法等と多岐に渡ります。
この度は礼儀作法で使用する扇子についてお話しいたします。
まずは、挨拶に使う扇子です。礼法では「慎みの扇子」と呼んでいます。挨拶をする時、相手との間に線を作るように、扇子を横向きにして持ちます。「畏れ多くて近づくことができません」、そのような慎む気持ちを扇子の一線で表現しているのです。
慎むということは、自分が下がるということです。扇子の一線は、相手への敬意と同時に、「物事は下がって見よ」のメッセージ。今大きいと感じていることも、下がってみると意外と小さかったということがあります。「物事は下がって全体を見ないと分からない」と扇子が教えてくださいます。
他にも、「物の受け渡しの扇子」という使い方があります。日本では、目上の人に直接物を渡すことは畏れ多くてできないと考えます。その為、渡す物をお盆に載せ、お相手にお盆から取っていただく、もしくは中継ぎの人にお盆ごと渡して目上の人に取り次いでいただきます。お盆がない時は、何かをお盆代わりにするのですが、その一つが扇子です。扇子を開き、その上に渡す物を載せて差し出します。今は、そのような所作で物の受け渡すことはほとんどなくなりましたが、名残りはあります。名刺を交換する時、日本のマナーでは名刺入れを名刺に敷いて行います。それは、「貴方に直接物を渡すのは畏れ多いので、お盆に載せて渡します」という気持ちを表現しているのです。
逆に、目上の人が目下の人に直接物を渡すと、「貴方と私は親しい関係ですよ」、「どうか緊張しないで」というメッセージとなります。茶会で亭主が客に膳をあえて手渡しするのは、「どうぞ緊張なさらず、リラックスしてくださいね」というお心遣いなのです。

(12/10/2025)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com
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