
第十八回
「Empress Shoken Fund」
世界最古の国際人道基金
皆様は「昭憲皇太后基金」をご存知でしょうか。100年以上の歴史をもつ世界最古の国際人道基金です。昭憲皇太后は日本の第122代明治天皇の皇后であそばされます。
明治期の日本は、西洋の制度や文化を取り入れながら近代国家へと大きく変化しました。これまで連綿と続いてきた生活様式や価値観が変わり、新たな時代を受け入れて行かねばならない国民の為に、また、欧米の国々と国際社会で肩を並べる国となる為に、皇太后は自らの意思でさまざまな社会事業にお取り組みになり、多くのご功績を残されます。
明治19年(1886年)、皇太后は華族女学校を洋装で視察され、以降の公式行事は洋装でご出席なさるようになります。皇后として初めて洋服をお召しになったことには理由がありました。当時、日本の伝統的な着物が華美になりつつあり、身動きも不自由であることから、より簡素で動きやすい洋服を採用なさったのです。その際に皇太后が重視されたことは、服地や付属品が国産であること。異国の文化の良い点は取り入れるということを実践しつつ、国を愛する心と質素実用の心を大切にすることを、お姿を以てお示しになったのです。
日本の発展の為には女子教育も重要であるとして、女子の教育機関をご支援なさったり、他にも産業振興、伝統文化の継承へのお取り組みなど、ご活動は多岐にわたります。日本赤十字社の人道活動も大いに奨励されます。当時の世界の赤十字事業は、戦時において敵味方の区別なくすべての負傷者を救護することを目的としていたなか、日本で起こった災害に対し、皇太后は日本赤十字社に命じて、救護班を被災地に向かわせ、金銭的にも多額の援助をなさいました。このことが赤十字の平時活動の先駆けとなります。赤十字国際委員会へのご寄付をもとに作られた「昭憲皇太后基金 “Empress Shoken Fund”」は今なお世界中の赤十字社の平時活動に役立てられ、支援先は171カ国に及んでいます。毎年皇太后のご命日である4月11日に分配されています。

(4/9/2025)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com