
第五十回
新嘗祭
豊かな実りを神々にお願いくださる日
11月23日は、日本の祝日「勤労感謝の日」です。以前は、「新嘗祭」とよばれる祭日でした。お休みの名称は変わりましたが、「新嘗祭」がなくなったわけではなく、今も宮中で毎年執り行われています。
新嘗祭がいつ始まったかは定かではありませんが、日本最古の歴史書「古事記」には、第二十一代雄略天皇の巻に載っている歌謡に「ニヒナヘ」という言葉があり、その言葉は、更に遡った第十二代景行天皇の御代の「新嘗」を歌い上げたものです。景行天皇の御代となりますと二千年位前でしょうか。一年の宮中祭祀(天皇が為さるお祭り)のうち、最も重要とされるお祭りです。
新嘗祭は、神嘉殿というお建物に神々をお招きし、お米を中心としたその年の実りを報告し、感謝申し上げるお祭りです。天皇陛下は真っ白な装束をお召しになり、収穫されたばかりの新穀(米御飯と栗御飯)、新穀で醸造された白酒、黒酒の濁り酒を神々とご一緒にお召し上がりになります。古式の様式で調理された新穀を、天皇陛下御親ら竹の箸(箸の原型といわれるもので、竹を細く削ってピンセット状にしたもの)でお取りになり、柏の葉の小皿に盛り付けなさいます。そして神々にお勧めになって、ご自分もご一緒にお召し上がりになります。これを「御直会」といいます。御直会を終えられた後は、ご神饌をお下げし、神々に「どうぞお泊まり下さい」と願います。神々をもてなす理由がもう一つ。国民が食べ物に困りませんようにと、来年の豊かな実りも神々にお願い下さっているのです。
同じ内容のお祭りが午後六時から(夕の儀)と午後十一時から(暁の儀)の二回繰り返され、二回目のお祭りが終わるのは深夜の一時。室内に暖房はありません。とてもお寒い中、天皇陛下は薄いご装束でお祭りをなさっていらっしゃいます。
残念なことに、今はそのようなお祭りを毎年なさって下さっていることを日本国民の多くが知らないのではないかと思います。広く知っていただけるようにお伝えして参らねばと思います。

(11/20/2025)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com









