日本の民族衣装、着物|べっぴん塾

 

第五十二回

日本人の心や在り方を示す大切な文化
日本の民族衣装、着物

 

日本の民族衣装、着物。
着物は日本人の心や在り方を示す大切な文化ですから、着物から教わることを少し振り返ってみましょう。

日本には多くの「○○道」があります。何事も「道」とすることで、特定の技術を向上するだけではなく、同時に人としての研鑽にも活かしていく。そのような心意気が日本の文化の根底に貫かれています。着物もまさに「着物道」。服を着ることさえも学びの機会とする。万物を師と仰ぐ日本ならではの「力」ではないかと思います。

着物はとても美しい物です。染め、織り、縫い、いずれをとりましても職人技が光り、衣紋掛けに掛けられている着物の美しさは思わずため息が出てしまうほどです。しかし着るとなると、その美しさはたちまち危うくなります。
まず着付け。襟にしわが少し寄っているだけで、お端折りがまっすぐでないだけで、もう着物は美しくなくなってしまいます。

所作も重要です。足を大きく開いて歩いたり、靴で歩く時と同じようにつま先で地面を蹴って歩くと、着物の裾が跳ね上がり、着物の美しさは台無しです。段差が大きい階段では一段ずつ両足を揃えてから上がらねば、ふくらはぎが見えて恥ずかしく、また着物が階段にあたって汚れてしまいます。

荒い言葉も着物には不似合いです。着物がおのずと丁寧な言葉遣いをさせて下さることと思いますが、そうであっても、普段からその話し方に慣れていませんと、違和感を与えてしまうでしょう。

そして、心のゆとりも。着物を着ている人が忙しくバタバタとしたり、イライラとしたりしていると、洋服の時より目立ちます。

細部に渡って普段の生き方を振り返らせて下さる、それが日本の民族衣装、着物なのです。

サッと着ることができる洋服の有り難さに気づけることも、着物と比べるからこそ。有り難いことであっても、それが当たり前になると有り難いとは思わなくなります。そのようにはなりたくないので、生活のどこかに困難さを残しておきたいと思う私です。

出雲では旧暦10月のことを「神在かみありづき」といいます。「人々の幸せの縁を結ぶ会議(神議かみはかり)」をなさる為、旧暦10月に全国の神様が出雲にお集まりになると伝えられています。

(12/3/2025)


筆者・森 日和

禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com

 

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