

筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信033
抗議デモに揺れるLA——
いま、何が起きているのか?
ロサンゼルスでは、トランプ大統領の移民政策をめぐる抗議デモが続いています。事の発端は、市内の衣料品倉庫やホームセンターなどで、ICE(移民・関税執行局)による不法移民の取り締まりが行われたことです。
この取り締まりに反対する移民支援団体や市民たちが、リトルトーキョーの近くにある連邦ビルの前に集まって抗議を始めました。一部のデモ参加者が車両に火を放ち、ベンチをバリケードにして通りを封鎖するなど、緊張が高まりました。
トランプ大統領は、ロサンゼルスが「不法移民と暴徒に占拠されている」と主張して、州兵のみならず海兵隊まで投入して、事態は刻々と変化しています。ICEの取り締まりはオレンジ郡など郊外でも行われ、デモの範囲も拡大しています。
現場では、メキシコ国旗がはためき、デモ参加者の怒りと悲しみが入り交じった声が飛び交います。破壊される車両、落書きされた建物——そうした光景はSNSやマスコミを通じて拡散され、今やロサンゼルスは世界の視線を集めています。
トランプの狙いとは
トランプ大統領にとって、不法移民の排除は2015年の出馬以来、最大の公約です。そしてバイデン前大統領の時代には、アメリカに多くの移民が流入しました。これに対して、保守派だけでなく、中間層の人たちからも不満が高まっていたため、トランプ大統領の政策を後押ししたと言えます。
さらに今回は、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の許可を得ずに州兵を派遣するという異例の措置も取りました。州兵というのは、本来は自然災害や治安維持のために州知事の指揮下で活動する組織です。しかし、大統領が「非常事態」と判断すれば、州兵を連邦軍として使うことができます。トランプ氏は、この権限を使って「法と秩序を守る強い大統領」というイメージを示そうとしているのです。
当然、民主党側は強く反発しています。ニューサム知事は「州の権利を侵害している」として、州兵派遣の差し止めを求めて裁判を起こしました。ロサンゼルスのカレン・バス市長も「摘発前は街は平穏で、デモも市警で十分対応できた」と述べ、州兵を派遣して「わざと混乱を起こそうとしている」と批判しています。
この問題について、アメリカ国民の意見は、政治的な立場によって大きく分かれています。共和党を支持する人たちの多くは「不法移民は排除すべきだ」「抗議参加者は無法者だ」と考えています。一方、民主党を支持する人たちは「移民はアメリカ経済に必要な存在だ」「人道的に扱うべきだ」と主張しています。
抗議デモの複雑な実情
私は記者として多くの抗議デモを取材してきましたが、参加者は決して一枚岩ではありません。静かに行進する人もいれば、感情的に叫ぶ活動家もいます。中には破壊や略奪を目的とする人も混じっており、真面目に抗議している人たちが困っているのも事実です。
参加者が抱える事情も様々です。移民政策への怒り、制度への不信、家族を守りたいという切実な思い——みんな違う立場や感情を持っています。だからこそ、抗議参加者を「暴徒」と決めつけるのも間違いですし、逆に「すべて正義」と美化するのも危険です。大切なのは、なぜこのようなデモが起きているのかを理解することです。
ロサンゼルスは、人口の約半分がヒスパニック系、約15%がアジア系という「人種のるつぼ」です。様々な民族が経済の担い手となり、多文化主義を体現してきた都市で、こうした分裂が起きていることの意味は重大です。アメリカがどんな国を目指すのか、いま改めて問われているのです。
(6/13/2025)








