ホワイトハウス入りを狙う 「華僑」ならぬ「印僑」の政治家

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アメリカ101 第172回

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今回は「華僑」ならぬ「印僑」の政治家としては、アメリカでは、現職の副大統領カマラ・ハリスを上回って「印僑」として最高のポストであるホワイトハウス入りを狙うニッキー・ヘイリーにまつわる話題です。  2024年11月5日が投票日であるアメリカの次期大統領選挙に、これまでのところ正式に名乗りを上げているのは共和党のドナルド・トランプ前大統領だけですが、今月15日に同党対立候補として、元サウスカロライナ州知事で、トランプ政権で国連大使を務めたニッキー・ヘイリーが、公式に立候補すると伝えられています。2011年1月から2017年1月まで、サウスカロライナ州初の女性/アジア系州知事を2期務めたあと、畑違いの国連大使を無難にこなし、現在は在野の政策研究所に所属しています。

同州バンバーグ生まれで、両親はインド・パンジャブ州出身のシク教徒のインド人。父親がカナダの大学から奨学金を受領してカナダに移住、博士号を取得したあとアメリカに移住して、サウスカロライナ州で教職を得ているという「印僑」一家出身です。

ヘイリー自身はサウスカロライナ州の名門公立大学クレムソン大学を会計学修士学位を取得、リサイクル会社勤務などを経て地元の商業会議所役員を足場に、2004年に州議会下院議員に当選、2010年には僅差で州知事選で当選、2期にわたり知事を務めています。その後、2016年11月にトランプ大統領により国連大使に指名され、上院での承認を経て、第29代国連大使に就任、2018年まで国際舞台で活躍しました。近年の共和党の重鎮として同党を“操る”トランプとは、「付かず離れず」といった関係で、2016年のトランプによる最初の大統領選挙戦では、当初は対立候補のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ)を支持。またトランプの大統領時代の移民政策については、イスラム教徒の移民禁止を主張する方針を「非アメリカ的」と批判しています。

それが今度は、大統領選挙という大舞台で指名争いでの出馬を表明、真正面から対決するという思い切った行動に出ると伝えられるのは、トランプでは2024年の大統領選挙での敗北が避けられないという共和党の一人としての差し迫った危機感が背景があると思われます。

それは、現職のジョー・バイデンが、手腕についての疑問が残ったままであり、これまでのところ「優れた大統領」という評価は見当たらず、さらには昨年11月で80歳代に入った「後期高齢者」であるといった“ハンディキャップ”を負っているにもかかわらず、トランプ相手の選挙戦という「再決戦」では、優位にあるといった評価が一般的という現状では、共和党としては、新しい人材の起用の必要性があるとの認識が党内にあるとの判断からの出馬表明というのがヘイリーの“読み”でしょう。  アメリカでの「印僑」の活躍ぶりは、実業界だけではなく、政治の世界でも目覚ましいものがあります。ビジネスでは、過去や現在の経営者には、音響製品の著名企業ボーズの創業者アマー・ボーズ、金融大手シティグループのビクラム・バンデットCEO(最高責任者)が知られています。副大統領のハリスは父親がジャマイカ出身の経済学者で、母親がインド出身の医学研究者という“ハーフ”です。

国際的な「印僑」の“名声”も比類がないともいえそうです。とくにインドが旧英植民地だったこともあって、イギリスでは、現職の首相リシ・スナクやロンドン市長のサディク・カーンといった行政のトップが「印僑」、それも、それぞれヒンドゥ教徒、イスラム教徒という、「英国教会」のご本家の国では“異教徒”の人物が行政を担当しています。

“母国”以外の国で、政治や経済などのさまざまな分野で成功を収めている「世界4大移民集団」という言い方がありますが、当然ながら「印僑」も含まれています。他の3つの集団は、華僑、ユダヤ人、そしてアルメニア人です。筆者自身も、世界各地で定住者として生活したり、取材のために短期滞在した場所で、外為から始まって現地情報などで助けられた思い出が数多くあります。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(2/7/2023)

 

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