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アメリカ101 第187回
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アメリカ合衆国の“原罪”とも言える黒人奴隷制度の下で、長年にわたり厳しい人種差別待遇を受けてきた黒人(アフリカ系アメリカ人)の子孫を対象とした、謝罪と贖罪(しょくざい)を意味する賠償計画がカリフォルニア州で話題となっています。
というのも、州政府レベルでは初めてとなるカリフォルニア州政府による賠償金支払いを含む一連の勧告が5月6日に、賠償問題を審議していた「カリフォルニア州賠償特別委員会」(California Reparation Task Force)により発表されたからです。これらの勧告は州議会に送付され、法令として具体化するかどうかを審議することになるのですが、その内容が明らかになった直後から、さまざまな問題点を指摘する声が巻き起こっています。
USAトゥデー紙によると、一部のエコノミストの試算では、この勧告に沿って賠償金を支払うとすると、その規模は総額8000億ドルという巨額なものに達するとのこと。カリフォルニア州政府の年間予算規模である3億ドルの2.5倍というのですから、その大きさのほどが分かります。
9人のメンバーから成る特別委員会は、ギャビン・ニューサム州知事(民主党)と、民主党議員が圧倒的多数を有して支配する州議会が人選にあたったもので、“進歩的”な色合いの強い構成なのですが、それにしても、文字通りの桁外れの“大盤振る舞い”の賠償額です。どうして、このような数字が出てくるのかなのですが、同委員会の説明では、カリフォルニア州在住の黒人が「依然として現在まで続く根強い奴隷制度の残滓(残りかす)」に苦しんでいるのに加えて、「警察による過度の取り締まり」(overpolicing)に直面しているからだということのようです。具体的には、1971年から2020年まで続いた「麻薬戦争」の渦中に州内に在住していた黒人奴隷の子孫には、その期間中に年間2,352ドルを支払うよう勧告しています。
さらには、1933年から1977年までの間、居住区域面での差別を受けていた奴隷の子孫には、その居住期間について年間3,366ドルの支給や、その他保健面での被差別に対して年間13,619ドルの補助金といった賠償が加わり、一人当たり最高で120万ドルといった具合です。
しかし、人種差別に伴う賠償の対象となるのは、すべての黒人の子孫ではなく、移民黒人の子孫は対象外であるほか、第二次世界大戦中に強制収容所に収容された日系人、大陸横断鉄道建設に従事した中国人、居住地から強制的に排除されたネイティブアメリカン(アメリカン・インディアン)など、黒人と同様に人種差別の対象となった人々の子孫は賠償の対象から外されています。
さらに賠償の対象となる「奴隷の子孫」としての証拠が必要なわけですが、その識別方法が不明確です。同特別委員会の計画では、賠償受領の有資格者であるかどうかを判定する血統調査機関を設置することにしていますが、奴隷に関する統一的な戸籍が存在するわけではないので、判定をめぐって裁判沙汰が続出ということも考えられ、前途多難です。カリフォルニア州では、以上のような州政府による賠償計画のほかに、サンフランシスコ市/郡でも独自の賠償構想が進められています。「サンフランシスコ・アフリカン・アメリカン賠償諮問委員会」(San Francisco African American Reparations Advisory Committee=AARAC)と称する組織が、18歳以上の\黒人あるいはアフリカ系アメリカ人であることなどの一連の資格を有する市民に、一律500万ドルの賠償金を支給する提案を参事会、市長、人権委員会に示しており、奴隷制度の歴史的清算を意味する動きとして注目されています。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(5/23/2023)