アメリカ101 第99回
カリフォルニア州が「大変なことになる」かどうかの岐路に差し掛かっています。というのも、今月14日に投票日を迎える州知事リコール選挙の結果次第では、アメリカで最大の「ブルー・ステート」(民主党の牙城)の新しい州知事に、ドナルド・トランプの「懐刀」としてホワイトハウスで要の地位にいた大統領上級顧問スティーブン・ミラーの指南役で、「小さな政府」を信条とする保守派論客の大御所ラリー・エルダーが、現職のギャビン・ニューサムに代わって直ちに新しいカリフォルニア州知事に就任するからです。州政治のトップが、リベラル色の濃い一連の政策を打ち出してきた政治家から、実務経験皆無ながらトランプ政権誕生に至るアメリカでの右寄りのイデオロギーの旗振り役を、ラジオ・トークショー番組ホストとして努めてきたイデオローグが就任すれば、カリフォルニア州政治の地殻変動を引き起こすことになります。
州知事の“受難”については、このコラムでは「ニューサム州知事、『夜の三つ星レストラン』でイメージダウン」(今年2月5日号、第69回)と「CAとNY、二大ブルー・ステートの州知事は任期を全うできるか」(同3月19日号、第75回)で触れましたが、その後ニューヨークのアンドリュー・クオモ知事はセクハラ疑惑で辞任を余儀なくされ、ニューサムも土壇場に立たされています。カリフォルニア州での知事リコール運動は、カリフォルニア州で少数野党に甘んじてきた共和党が起死回生の手段として注目、2003年には当時の民主党カール・デービス知事を狙ったリコール選挙では、「知事解任/アーノルド・シュワルツェネッガー知事誕生」という成果を上げています。
今回のリコール運動はニューサムの“失政”として、①全米で最高水準の税率②全米で最大のホームレス人口③生活水準が最低④不法移民対策⑤水資源不足問題、などを指摘して始まりました。これに対してニューサム陣営は当初は①財政黒字実現 ②ヘルスケア充実③インフラ整備④教育予算増などを成果として挙げ、リコール運動は根拠なしとして一蹴してきました。2020年9月時点での支持率が64%にも達していた自信もあったと思われます。しかし2020年に入って新型コロナウイルス感染拡大で状況が一変します。「ミシュラン三ツ星レストラン「フレンチ・ランドリー」での内輪の“密会食”が明らかになり、コロナ対策の遅れも話題になるなどニューサムへの風当たりが強まる中、リコール署名集めが加速してリコール選挙実施の運びとなったわけです。
選挙は二つの投票から成り、最初の設問が「リコールの賛否」、二つ目が「リコール成立の場合の新知事投票」で、すでにこの投票用紙は登録有権者に配布済みです。カリフォルニア大学バークリー校行政研究所(IGS)がロサンゼルス・タイムズ紙の支援を受けて実施した最新の世論調査では、リコール賛成が47%、反対が50%と拮抗しており、どちらに振れてもおかしくない状況です。リコール反対が過半数に達しない場合は現職知事は即解任、最多の得票があった候補が新知事に就任します。新知事候補者は最終的には46人となり、共和党を名乗る候補が大部分で、民主党からは1人だけ。民主党陣営は、リコール反対に全力を上げており、党組織としては新知事候補を指名していません。そんな中で、「小さな政府」を極限まで主張して、30年にわたり右派系ラジオトークショーのホストとして、保守派の間で根強い人気のあるエルダーが図抜けて支持者を集めています。「新知事選挙」は最多得票候補が、たとえ20%とか30%という低い得票率でも当選する仕組みであるため、リコールが成立すれば「エルダー新知事誕生」という「大変なこと」が現実となる可能性が高いわけです。(以下次号に続く)
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(9/3/2021)