アメリカの入院生活で触れる “文明の利器”

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アメリカ101 第226回

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(承前)2週間の病院生活では、無聊をかこつことはまったくありませんでした。病床に伏している時間は、手術直後はほぼ終日で、食事らしいものも、流動食だけだったものの、尿瓶にお世話になるのは避けられません。術後数日はトイレに足を運ぶことなく、横になったままで過ごす日々です。日中は、数時間の間隔での、さまざまな薬剤の服用で看護師が出入りし、家族の見舞いもあるものの、個室でひとりで過ごすことが多かった毎日でした。
 
しかし枕元には携帯電話とiPadという“文明の利器”があって、まったく退屈しません。病院内のWifiシステムは万全で、強力な電波が隈なく届いており、また携帯電話(ケイタイ)では、家族や知人との会話を交わして勇気づけられたのに加え、さまざまなサービスを享受できました。
 
例えば、YouTubeを通じて、日本語の映像/音声に簡単にアクセス可能です。そして、日本が世界に誇ることができる大衆芸能の粋である話術の落語ですが、好きな題目である6代目圓生による「らくだ」は、入院中に実に3回も繰り返して聴きました。同一音源ながら、聴くごとに新たな発見があり、楽しむことができました。
 
そして入院中に絶大な恩恵を享受したのは、ロサンゼルス市立図書館(LAPL)のオンライン・サービスです。
LAPLの素晴らしさについては、過去にこのコラムで触れましたが、今回の入院中に、改めて公共サービスとしての図書館の存在を見直す機会となりました。
 
ネットを通じてLAPLのホームページ(lapl.org)にアクセスすると、その広範にわたるサービスが一目瞭然です。新聞や雑誌は「Magazines &Newspapers」という項目の下に、The New York Times, The Washington Post, Wall Street Journalというアメリカの3大日刊紙の名前がリストアップされていますが、それぞれの新聞名をクリックすると、その日付の紙面にアクセスが可能となります。
 
また「Education &Research」という項目からは、新聞のデータベースにアクセスすると、アメリカの大部分の日刊紙を網羅したデータベースが閲覧可能で、検索したい話題に関連したいくつかの単語を打ち込むことで、関連記事が表示されるので、その中から選択し、簡単にその記事を印刷できるようになっています。
 
そして日本人にとって嬉しいのは、LAPLを介して日本語の週刊誌や月刊誌、季刊誌を購読できる検索プロセスが提供されていることです。ネットを通じて閲覧できたのは、サンデー毎日、週刊・東洋経済、週刊ダイアモンド、Newsweek日本版などの週刊誌のほかに、会社四季報プロ500、ステレオサウンド、Hiviなどの月刊誌/旬刊誌も読むことができました。
 
このほか家人には、自宅から何冊かの文庫本の差し入れを頼んだのですが、古今東西、森羅万象のトピックを網羅する、これも日本の誇るコンパクトな文庫本は、手軽に読めるという点で、入院中の慰めとして、この上なく重宝しました。アメリカやヨーロッパの各国には軽装本としてポケットブックがあるのですが、それより小型の日本の文庫本は、それこそ世界文化遺産に相応しいものと確信した次第です。
 
 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/27/2024)

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