ロサンゼルスが「無法地帯」に 独立記念日にかけての“違法花火ショー”

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アメリカ101 第140回

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今年もまた「無法地帯」の季節が訪れてきました。ギャング団の抗争といった物騒なシチュエーションではなく、行政や司法当局の「全面禁止」通達をあざ笑うように、7月4日の独立記念日にかけてロサンゼルス一帯での毎年繰り返される盛大な“違法花火ショー”です。

 もちろん、数千、数万人を集めてダウンタウンのロサンゼルス(LA)市役所周辺やパサデナのローズボウル、ハリウッドボウルなどを舞台に繰り広げられる花火大会ではなく、街角や空地といった場所から、競うように打ち上げられる花火のこと。今年は南カリフォルニア一帯での歴史的な干ばつで、ちょっとした火の気で山火事などの火災が発生しやすくなっているため、例年になく違法花火の危険性が指摘されており、ロサンゼルス市警(LAPD)などが取り締まり強化を発表しているものの、広範な地域が対象なため、効果のほどを疑問視する向きが多いようです。

 LA市役所の法律規制を担当するマイク・ファウアー市法務官は早々に6月中旬、広範にわたる違法花火対策を発表、花火業者による打ち上げを除き市内全域で花火打ち上げが禁止となっていると強調した声明を発表。市条例により花火の販売/使用/所有/打ち上げが軽犯罪として処罰の対象となり、最高で禁固1年・罰金1,000ドル、大型花火のケースでは重罪となると警告しています。

 だがLA一帯での花火規制を複雑にしているのは、LA市では全面禁止であるものの、LA郡では、市政を敷いていない非自治体地域内では禁止ですが、88の市政都市の間では、カーソン、イングルウッド、ローンデール、ホーソンといった各市では、「Safe and Sane」(安全で良識ある)な花火は合法となっている点です。筆者が住むガーデナでは、この線に沿った花火については2002年の住民投票でOKとなり、市内各所でシーズンになると花火売店が設置され、自由に買うことができました。しかし20182月に市議会が条例で禁止を決定しています。

 サウスベイ最大の都市であるトーランス市でも、1940年代末までは花火規制はなく、1949年に一旦禁止となったものの、翌1950年に禁止解除となりました。だが1982年に市議会が再度禁止を決定したのですが、その代わりに市主催の花火大会を同年から、1979年にオープンしたクレンショー通り沿いのウィルソン・パークで開催することになります。その後市財政危機で2000年に中止となったものの、2016年からは市役所や図書館、屋外プールに囲まれたシビックセンターで打ち上げられた花火を、トーランス通り沿いの郡裁判所の駐車場や、隣接するLAギャラクシー・コンプレックス(元トヨタ・スポーツ・コンプレックス)の人工芝ピッチで見上げる形式で開催。新型コロナウイルスや市財政赤字で開催が危ぶまれていましたが、今年は通常通り、先着順、入場無料で開催の運びです。

 取り締まり強化に乗り出した今年の違法花火対策ですが、LAPDや郡シェリフ(保安官)は従来以上の警察官を動員するために予算措置をとり、パトロールを強化する方針です。またLAPDでは苦情受付窓口として電話番号(8772755273)を利用するよう呼びかけています。

 違法花火は火災を引き起こす恐れに加えて、退役軍人や銃撃事件被害者などのストレス障害悪化や、犬猫などを驚かせてペット脱走につながるといった指摘もあり、関係当局はさまざまなメディアを通じて、花火打ち上げを止めるよう訴えています。例年、独立記念日と大晦日から新年にかけての年2回が違法花火が最高潮となる時期で、今年も相変わらずロサンゼルス一帯で「違法花火打ち上げ無法地帯」が現出するのは間違いありません。

 ちなみに、筆者がアメリカで経験したベストの花火大会は、首都ワシントンで例年実施されるナショナルモールでの独立記念日の打ち上げ花火です。とくに、その中心に位置する高さ約170メートルのオベリスク状のワシントン記念塔(モニュメント)のすぐ傍の芝生に寝転んで、見上げる塔近くで“開花”する花火を眺めるのは、「いかにもアメリカらしい」といった雰囲気が体験できます。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(6/21/2022)

 

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