ディズニーと保守勢力が正面衝突 フロリダ州の文化戦争

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アメリカ101 第132回

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ひと言でいえば、「『ウィンウィン』の関係から『文化戦争』へ」ということでしょうか。フロリダ州で繰り広げられているロン・デサンティス州知事(43)が率いる同州の保守勢力と、世界最大級のテーマパーク、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート(通称ディズニーワールド)を擁するウォルト・ディズニー社との正面衝突です。

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同知事はドナルド・トランプ前大統領の熱烈な支持者で、トランプが2024年の大統領選挙に不出馬の場合には、その後継者としてホワイトハウス入りの野心を隠さない先鋭的な共和党の少壮政治家です。

高祖父が移民というイタリア系で、エール大学で学士号(BA)、ハーバード大学ロースクールで法務博士(JD)を取得、ロイヤーとして海軍入隊後司法省で連邦検察官として勤務という文字通りのアメリカのエリートコースを駆け上がり、政治家として2012年の下院議員選で地元フロリダ州東部ジャクソンビル選挙区から出馬、当選。そして2018年の州知事選ではトランプ支持を鮮明にして、民主党候補を得票率0・4%差という僅差で当選を果たすというスピード出世ぶりです。

就任後の新型コロナウイルス禍対策では、マスク着用、ワクチン接種、自宅待機などを義務付けることに反対、オフィスや学校、クルーズ船、政府機関施設への立ち入りにあたってワクチン接種証明提示を求めることを禁止した法案を率先して推進、法案成立で署名するなど「トランプ路線」を踏襲して、最小限の防疫措置にとどめるという保守派としての面目を発揮してきました。また性的少数者(LGBTQ)についても、同性愛者などを社会の一員として抱擁する多様性(ダイバーシティ)についても、最小限に止めるのを信条としています。

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同州では今年3月に、共和党保守派が多数を占める州議会が、小学校での性的指向や性自認に関する教育を厳しく制限する法案を可決、デサンティス知事は全面的に支持を表明、速やかに法案に署名、成立となりました。しかし、性的多様性へ向けた動きに反するものとの議論が沸き上がり、LGBTQ支持派は、これが「『ゲイ』と言ってはいけない」(Don’t Say Gay)法案だと激しく反発。またダイバーシティ推進を唱える多くの大手企業が反対しました。同州で最大数の8万人の従業員を抱えるディズニー社は、当初は立場を鮮明にせず、世論の反発だけでなく従業員の間からも激しい攻撃を浴びた末に、反対表明に踏み切りました。

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これに対してデサンティス知事は「ディズニーが争いを挑むなら、悪い相手を選んだ」と不快感を表明、「反ディズニー」の旗色を明白にしました。

フロリダ州での州政府とディズニーとの関係は、1971年にディズニーワールド開園以来、「ウィンウィン」の関係だったのですが、LGBTQをめぐる認識の違いから、今回の法律施行で両者が対立する構図となっています。同知事の「ディズニー報復」の意向を受けた州議会は、過去半世紀以上にわたりディズニーへの税制面での優遇措置として付与してきた、ディズニーワールド敷地一帯の「特別税制区」待遇を来年6月1日で廃止する法案を可決、同知事の署名で発効となりました。LGBTQに関する価値観の違いに起因する「文化戦争」に発展したわけで、フロリダ州でのディズニーワールドの経済面での重要な役割からすると、このまま“泥沼戦争”を続けるのは双方にとってマイナスであり、何らかのかたちでの収拾に向けた動きがいずれ具体化するものとみられます。なおアナハイムのディズニーランドについては、カリフォルニア州が政治的にはリベラルな「ブルー州」であるために影響はないと思われます。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(4/26/2021)

 

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