“地獄から届く”ガス料金請求書

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アメリカ101 第175回

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前週に続いて「大変なこと」がテーマですが、今回はガス料金の高騰という家計を直撃しているシアリスな話題です。その深刻さは、「gas bills from hell」(地獄から届いたガス料金請求書)という新聞の見出しからもうかがうことができます。寝室が4-5室あり、年間を通じ泳ぐことができる屋外温水プールがあるというロサンゼルスの「中の上」以上クラスの一軒家での毎月のガス料金は、これまで通常3桁程度だったものが1000ドルを上回るのは珍しくないという有様です。

加えて南カリフォルニアでも異常気象という歴史的な寒波襲来もあって、その影響は住宅だけではなく、大量のガスを使うレストランにも及んでおり、この水準が続けば倒産・閉店を余儀なくされる店舗が続出することも懸念されています。国際的な天然ガス価格はピーク時から値下がりに転じているものの、それが利用者レベルで反映されるには、まだしばらくかかりそうで、「我慢、我慢」が続きます。

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通常ですと、ニュース記事を伝える新聞の見出しは冷静、そして客観的なもので、感情をむき出しにするのは避けるのですが、ガス料金値上がりの厳しさを報じた2月15日付のロサンゼルス・タイムズ紙は、読者の感情に直接訴えるものでした。  主見出しが「Sorry, that gas bill is not a mistake」(残念ながら、そのガス料金請求書は間違いではありませんよ)で、そして副見出しは「Wholesale spike means gas bills from hell」(ガス卸売価格の高騰とあってガス料金請求書は《地獄からのような》最悪のものとなりました)とあり、この記事に添付された写真のキャプションがすべてを物語っています。

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写真の主は「REGULAR BILL」というタイトルの請求書を手にしたロングビーチ在住の牧師ブレント・エルドリッジさん(38)。1月分は907ドル13セントで、昨年同期と比べると実に8倍でした。写真の背景には日常的に使っているワールプールが映っているのですが、それにしても馬鹿げた高額で、牧師らしからぬ「It made me want to puke」(吐き気を催すほどだ)と、スラングを交えて驚きのほどを表現しています。同市のレックス・リチャードソン市長は今月に入って市議会を緊急招集、エネルギー・コスト高騰が過去20年間で最悪の「危機的状態」にあるとし、料金支払いができない住民への緊急援助を要請しています。ちなみに我が家では、夫婦2人だけで、ガス・セントラルヒーティングにはなっているものの、使用したことはなく、スペースヒーターを常用しており、手元のパソコンに入力してある過去のガス料金の2月分の推移を調べると、辛うじて2桁台にとどまっているものの、2年前比では4倍です。

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前記のロサンゼルス・タイムズ紙の記事では、ダウンタウンで目立つ高層ビルである52階建ての「Gas Cmpany Tower」を設計したリチャード・キーティングの自宅をめぐる“ガス料金騒動”が紹介されていますが、サンマリノに15年前に新築した邸宅も、ガス節約が最重要課題とあって、その素晴らしさを享受できないでいるようです。まずは年間常温で常時水泳可能にしていたプールを使用中止とし、セトラルヒーティングも止めて、スペースヒーターを取り入れたとのこと。

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このようなガス料金高騰の長期化を受けて、南カリフォルニア一帯をサービスエリアとするサザーン・カリフォルニア・ガス・カンパニー(SoCalGas)は、従来の方式による杓子定規のやり方での料金滞納世帯へのガス供給停止措置に踏み切ることなく、これを一時的に棚上げし、滞納が長引いている利用者についても、個別に対応策を話し合って解決策を模索、停止断行を先延ばしすることにしています。同社のジリアン・ライト顧客担当シニア副社長によると、今年になって顧客からの相談電話は例年比15%増の100万回強に達しており、顧客には「パニックに陥ることなく、事情を説明するよう求めている」とのこと。具体的には、ネット上のホームページsocalgas.com/winter にアクセスすれば、12か月分割払いや低所得世帯向けの割引きの対象となるといった対応もあり、「とにかく連絡下さい」というのがガス会社からのメッセージです。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(2/28/2023)

 

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