
第四十四回
仏教と深い関わりがある彼岸花
鮮やかな赤色が山野の風景を彩ります
昔から言い伝わる「暑さ寒さも彼岸まで」。昔とはずいぶんと気候が変化した昨今でも、彼岸を過ぎると、その言葉の通りに、雲のかたちも、吹く風の香りも、鳴く虫の声も「秋」となることに驚かされます。
九月半ばを過ぎても、気温が30度をこえる日が続いていましたから、今年の彼岸花は少し遅れて咲くのではと思っていましたが、彼岸の期間に入ると、合図があったかのように一斉に咲き始め、只今最盛期。鮮やかな赤色が山野の風景を彩っています。
私は小さい頃から彼岸花が好きで「家に持ち帰りたい」とよくわがままを言っていましたが、「火事になるからダメ」と説き伏せられ、これまで一度も持ち帰ることはありませんでした。いつしかこの山野の風景にある彼岸花が美しいと思うようになり、持ち帰りたいという気持ちも薄らいでゆきました。
日本では、彼岸花は、「葬式花」「墓花」「幽霊花」などともよばれ、あまり良いイメージではありません。そのようなイメージとなった理由は、「彼岸」には「あの世」という意味があるからとも言われますが、もうひとつ、彼岸花はすべての部分に毒性のあり、特に球根には強い毒成分がある為、子どもが食べたりすることがないように、ネガティブなイメージを持たせたのではないかと考えられます。縁起が悪いと言われれば、子どもたちは恐れて触れようとはしません。子どもたちを危険から守る為の先人の智恵だったのでしょう。
彼岸花は仏教と深い関わりがあり、仏教経典に「曼珠沙華」として登場します。サンスクリット語のmanjusakaを音写したと伝わり、その意味は「天上に咲く花」。大人気アニメ「鬼滅の刃」でも不思議な力を持つ花として描かれています。
私の彼岸花の思い出は、京都大原の風景です。毎年秋の彼岸の頃、三千院にお参りすることが我が家の恒例行事でした。三千院から寂光院まで歩く道すがら、彼岸花の絶景を愛でることができます。市街の京都とは違った趣を醸す京の奥座敷。おすすめの観光スポットです。

(10/10/2025)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com









