上院が年間通じた「夏時間」採用法案を可決 =下院審議は異論多く、長引く見通し=

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アメリカ101 第127回

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「アメリカで住んでいれば、面倒でも年2回必ずやること」を、なしで済ませようとする法案が3月15日に、国論を二分する論争を繰り返す連邦議会下院本会議で異例の「unanimous consent」という異論がない超党派の議事運営プロセスで可決となり、上院に送付となりました。「夏時間」のことで、毎年2回頭の中で「Spring forward and fall back」と唱えながら、毎回時計を一時間進めたり、遅らせたりする必要がなくなるという、一見すると“便利”このうえもない法案です。ところが、そんなスピーディーな上院での運びから一転して、今度は下院での審議を控えて、「百家争鳴」の様相を示してきました。

「Daylight Saving Time」(DST)という「夏時間」制度は、現在アメリカでは「1966年統一時間法」という法律に基づいて、毎年3月第2日曜日午前2時を期して1時間進める「夏時間」となり、11月最初の日曜日午前2時を期して「標準時」に戻ることになっています。しかしこれには例外があり、アリゾナ、ハワイ両州や一部アメリカ原住民(インディアン)保留地などは「通年標準時」を採用しています。

夏には日照時間が長くなるので、それをエネルギー節約や経済活動の活性化、さらにレジャーに振り向けるとの理由で「夏時間」を設定しているのですが、その効果のほどについては、様々な議論が絶えません。健康への悪影響、家電製品、時計、ソフトウエアなどの各種システムの移行コスト、一時的な交通事故増加などを指摘する向きもあります。日本でもアメリカ軍占領下の1948年から1951年まで「サマータイム」として採用されたのですが、1951年講和条約による主権回復で廃止となっています。

今回上院が可決したのは「Sunshine Protection Act」と称する法案です。日本語では「日照確保法案」といった感じで、現行法での「8カ月の夏時間」を通年12カ月採用することで、日照時間を最大限利用するというわけです。共和党のマルコ・ルビオ(フロリダ州選出)が音頭をとって民主、共和両党議員が共同提案したもので、大した異論もないまま、採決投票が不要の「全会一致」という方式でスピード可決したことでもわかるように、議員の間でコンセンサスがあったことを伺わせます。

これを受けて下院での審議でOKとなれば、最終的にはジョー・バイデン大統領のサインで発効、通常なら来年11月に「夏時間」が終了、標準時に移行となるのですが、そのまま「夏時間」を続ける運びとなります。ところがここへきて、上院での審議・採決が“拙速にすぎた”という見方が強まり、慎重審議となる可能性が高まっています。

ナンシー・ペロシ下院議長や、下院多数派の民主党内からは、「現時点では法案の行方は不透明」とする声が多数を占めています。その背景には、権威ある「アメリカ睡眠医学会」(AASM)が早々に、毎年2回の時間調整を取り止め、現在の「標準時」による通年単一時間制が妥当との提言を発表したことがあります。人間を含めた地球の生命体は「概日(がいにち)リズム)」(circadian rhythm)という約25時間周期の生理現象(体内時計)があり、そのリズムを維持するには時間経過が一律の「標準時」が適切だという観点から、「夏時間」は不適切というわけです。下院での審議を担当するエネルギー・商業委員会では、監督官庁である運輸省のピート・ブティジェッジ長官に書簡を送り、「標準時」「夏時間」に関連するさまざまな問題点を洗い出した調査報告書の作成・提出を求めており、当面はその結果待ちというわけで、「夏時間」通年実施を含めた下院での「日照確保法案」の扱いは先延ばしとなる見通し。まだしばらくは毎年2回の時計の「forward/back」作業は続きそうです。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/22/2021)

 

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