人の命に国籍の違いはない |べっぴん塾

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第九十一回
人の命に国籍の違いはない


台湾・烏山頭ダムに刻まれた
八田與一の信念

烏山頭ダムの堰堤の下に殉工碑が建てられています。ダム建設を主導した日本人土木技師の八田與一が、工事中の事故や病気で亡くなった方々を慰霊する為に建てたものです。そこには134名の名前が刻まれています。八田は日本人と台湾人を分けず、身分も区別しない、亡くなった順に全員の名前を刻みました。人の命に国籍の違いはないという姿勢を貫いたのです。

試練は続き、ガス爆発事故の翌年には関東大震災が発生しました。東京や横浜を中心に甚大な被害が生じ、復興の為には莫大な資金が必要でした。日本の国家予算は震災復興に優先してまわされ、その結果、ダム建設の予算は大幅に削減されることになります。工事を続ける為には、作業員の半数近くを解雇せねばならないという、極めて深刻な状況でした。

「俺たち、そろそろクビらしいぞ」「そうらしいな…。日本人が優遇されるのは仕方がない…」。台湾人作業員たちは、解雇されるのは自分たちだと考えていました。ところが、八田が解雇したのは日本人ばかりでした。理由を尋ねられた八田は、「当然ですよ。将来このダムを使うのはあなたたちなのですから」と答えました。
日本人は日本でも仕事を見つけることができる。しかし台湾の人々は、この地で暮らし続けていく。だからこそ、自分たちのダムは自分たちの手で造ってほしい。それが八田の願いでした。
多くの困難を乗り越え、1930年、10年の歳月をかけて、ついに当時東洋一を誇る烏山頭ダムと嘉南大圳(灌漑用水路)が完成したのです。

完成後も、皆が平等に利益を得ることができるように、八田は3年輪作給水法を考案します。全体の農地を3つの大きな区画に分け、1年ごとに水稲、サトウキビ、雑穀の栽培エリアをローテーションさせます。全域に同時に水を配るのではなく、3分の1の面積に必要な水量を集中させることで、本来の3倍の広さ(約15万ha)の農地を潤すことを可能にし、水の偏りや農作物の種類による不平等をなくし、すべての農民が平等に恩恵を受けられるように設計したのです。その思いは、八田が生涯大切にした信念「他利即自利」に通じます。

台湾の人たちは、ダムを見渡すことができる丘に八田の銅像を据え、今でも彼の命日には、毎年慰霊祭が行われています。

(9/9/2026)


筆者・森 日和

禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com

 

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