日本語の挨拶に宿る心|べっぴん塾

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第八十一回

日本語の挨拶に宿る心
「行ってきます」に込められた思い

「ご家族に元気よく『行ってきます!』と言ってきましたか」。
子どもたち向けの礼儀作法講座では、よくこの質問をしています。
「行ってきます」には、「頑張ってくるね」「無事に帰ってきます」というニュアンスが含まれています。
その声を聞いて、ご家族は「行ってらっしゃい」と応えます。この「行ってらっしゃい」には、「気をつけて」「頑張ってね」「無事に帰ってきてね」というエールや、無事の帰宅を願う祈りが込められています。

子どもたちは、そうした温かな言葉を背中に受けて、一日をスタートするのです。
帰宅時の「ただいま」には「元気に戻ったよ」、「お帰り」には「無事に帰ってきてくれて嬉しい」「お疲れさま」というニュアンスが含まれています。
「ただいま」は英語に直訳すると “Just now”。「おかえり」は “Welcome back”。
どちらも直訳では日本語の挨拶に含まれるニュアンスまでは伝わりません。訳しきれない思いが宿る、日本語ならではの独特な表現なのです。

食事の前後に言う「いただきます」「ごちそうさま」は、料理を作ってくださった方や食材を育ててくれた方への感謝と、その奥に、食材の命への敬意が込められた挨拶です。「命をいただいたからには」という思いへとつながる、大切な言葉です。
声をかけるときに使う「ごめんください」。
この「免」は「免じて」、つまり「お許しください」という意味です。突然声をかければ、相手は手を止めねばなりません。この言葉には、「ご迷惑となりますが」という、相手への配慮が含まれています。相手の時間に心を寄せた、丁寧で思いやりのある表現なのです。

こうした深いニュアンスを一語で表す挨拶は、他の言語にはあまり見られないのではないでしょうか。
日本人は「愛している(I love you)」という言葉を日常ではあまり使いません。それは普段の挨拶のなかに既にその気持ちが含まれているからかもしれません。言葉の奥に、喜びや感謝、祈り、そして愛をそっと忍ばせて伝える。それこそが日本語のもつ美しさなのです。



(7/2/2026)


筆者・森 日和

禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com

 

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