「涼しくなったつもり」という 夏の魔法としつらえ|べっぴん塾

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第七十九回

「涼しくなったつもり」という
夏の魔法としつらえ

日毎に暑さが増し、風鈴の音色が嬉しい季節となりました。どこからともなく聞こえるチリンチリンという響きに、私たちは「涼しくなったつもり」になります。蒸し暑いはずの日本の夏にどこか爽やかな印象をおぼえるのは、季節を迎える為の趣向のおかげなのではないかと思います。夏を迎える準備として、朝顔やヘチマの種を撒き、軒下に風鈴を吊るし、部屋も「しつらえ替え」をします。障子をはずして、葭戸に変え、縁側には簾をかけたり、葦簀を立てかけたり。その隙間から穏やかな光が入り込み、時とともに静かに移り変わる影、時折すっと通り抜ける風が暑気とともに気持ちまで静めてくれるようです。そして、畳の上に籐筵や網代を敷いて、肌に触れる感触をひんやりとさせます。花入れも籠などに変えて。

夏が過ぎれば、そのしつらえはすぐに取り払われるのですが、その潔さが、かえって夏の面影を心に残すのだろうと思ったり。
また、町には「氷」と書いた布がゆらゆらと軒先に揺れ始めます。ただ一文字、「氷」と書いてあるだけで、令和生まれの子どもたちでさえ「かき氷!」と声を弾ませ、涼しい表情を見せるのです。
風鈴の音も、「氷」の布も、実際には気温が下がるわけではありません。それでも私たちは涼しさを感じます。
しつらえも、透けただけ、風に揺らぐだけ、影を認識できただけ。ただ「涼しそう」という期待だけで心が満たされるのです。

「涼しくなったつもり」など、何の役にも立たないと言う人がいるかもしれません。しかし、それで心を満たすことができるのは、とても豊かな生き方なのではないかと思います。
六月からは着物が単衣に替わり、七月には透ける素材の盛夏の装いへと移ります。袷よりは涼しいとはいえ、洋服に比べればやはり暑いもの。心の中ではティーシャツをうらやましく思いながらも、決して暑そうにはせず、涼しい顔で過ごします。周りの皆さまに少しでも涼しく感じていただく為に。いえいえ、私も「つもり」の魔法で、鏡に映る夏着物に涼しくしてもらおうと思います。

(6/18/2026)


筆者・森 日和

禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com

 

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