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第七十四回
新茶に映る日本のこころ
八十八夜とともに味わう一杯の豊かさ
今まさに新茶摘みの最盛期を迎えています。近年は健康志向の高まりもあって、海外でも日本茶を楽しむ人が増えているとお聞きします。ペットボトルの緑茶も手軽で有難いものですが、この季節ばかりは、急須で丁寧にお茶を淹れたくなります。今年も新茶をいただけることに感謝の気持ちを込めて、お湯の温度や蒸らし時間などに気を付けながら、心をこめてお茶を淹れます。湯が落ちる音に耳を澄ませ、湯のみに広がる澄んだ黄緑色の水色を眺め、立ち上る爽やかな香りを吸い込み、ひと口ふくむ。その一連の所作が、五感をそっと癒やしてくれます。
なかでも、八十八夜に摘まれた新茶は、飲むと長生きするといわれ、古くから不老長寿の縁起物として珍重されてきました。新芽には冬のあいだに蓄えられた栄養素や旨味成分が豊富に含まれ、栄養価が高いことに加え、漢字で書くと“末広がり〟の「八」が二つ重なることも、その由来とされています。末広がりとは、運が開け、幸せが途切れず続いていくさまを表わす言葉です。
八十八夜とは、立春から数えて八十八日目にあたる日のことで、毎年五月二日頃に訪れます。この頃になると気候が安定し、霜が降りる心配もなくなる為、古くから農作業の本格的な始まりの目安とされてきました。
お客様にお茶をお出しする時は、湯のみの底を布巾でそっと拭いてから茶托に載せます。湯のみの底が濡れたままだと、持ち上げた時に茶托が湯のみにくっつき、茶托を落とされてしまうかもしれない為です。
ところで、茶托の役割は何でしょうか。諸説ありますが、礼法では「湯のみが熱いので気をつけてください」とさりげなく伝える為と教わります。そのお心遣いに応えるように、お茶をいただくときは、湯のみだけを持ち上げるのではなく、茶托ごと手に取ります。お心遣いをきちんと受け取った後に、茶托だけを机に戻し、お茶をいただきます。相手の心を察して受け取り合う、日本人らしい無言のコミュニケーションがそこにはあるのです。

(5/14/2026)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com
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