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第七十八回
日本に根づく優先のかたち
「誰かのために空けておく」という意識
日本の電車には、高齢者や身体の不自由な方、怪我をされている方、妊娠中の方、乳幼児連れの方など、座席を必要とする方が優先的に座る為の「優先席」が設けられています。他の席が空いていなくても、そこだけは空けておこうと考える人が多いのが日本の特徴です。その席が必要な方がいなければ使っても障りはないのですが、「空けておきたい」という気持ちが自然とはたらきます。
公共施設の障がい者対応トイレも同じです。どれほど一般のトイレが混雑して、長蛇の列になっていても、そちらを使う人はほとんどいません。「もしかしたら、ここを必要とする方が来るかもしれない」「ほんとうに必要な方が使えなかったら申し訳ない」という思いが、誰にいわれるでもなく、心の内に浮かんでくるからだろうと思います。
駐車場でも、車椅子のマークのある駐車スペースには、健常者のみが乗車している車が停まっているということはほとんどありません。数分であれば、どなたかがお困りになる可能性は低いのですが、可能性の問題ではなく、「いざという時に困らせないように」「必要とする方が気持ちよく使えるように」と考えます。
ショッピングセンターの駐車場では、車が美しく並ぶ光景をよく目にします。そこには、隣りの車の人が乗り降りしやすいよう、できる限りまっすぐ、区画の中央に停めようとする心遣いがあります。わずかに寄ったり、ゆがんだりしただけでも、停め直す人が多いのも、日本らしい振る舞いだと感じます。
「確率としては低くとも、万が一困る人がいてはいけない」。
そう思う心を私はとても美しいと思うのですが、この頃は合理性を理由に、「空いているなら使えばよい」という人が増えてきたようにも感じます。可能性がわずかであっても「困る人がいるかもしれない」と想像し、自分以外の誰かの為に行動を選ぶ心は、日本が長く大切にしてきた美徳です。
「自分さえ良ければいい」を嫌う心。
その心をこれからも守ってゆければと思います。

(6/10/2026)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com
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