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第六十七回
重いものと軽いもの、その持ち方の意味
所作に表れる思いやり
日本のおもてなしのひとつに「重いものを重そうに持たない、軽いものを軽そうに持たない」という教えがあります。重い物を重そうに持つと、周りの人に「大丈夫ですか、お手伝いしましょうか」とご心配をおかけしてしまいます。周りの人に気遣いをさせない為に、重い物はさりげなく軽やかに持つようにします。特にお荷物を重そうに持ってしまうと、お相手に「重い物を持たせて申し訳ない」という気持ちを抱かせてしまいます。周りの人に心配や気遣いをさせない為に、重い物は軽そうに持つようにと教わります。
襖の開け方の作法にもその心遣いを見ることができます。引手(襖の取っ手)に手を掛け、少し開けた後、手を襖の竪縁(たてぶち:襖や障子の縦枠)の低い位置に下げます。物の重心は低いところにある為、低い位置を押すと軽々と襖を開けることができます。敷居の滑りが悪く、襖が重い時も、手の位置を低くすると、幾分軽くなり、周りの皆様にご心配をおかけせずに開けることができます。手を下げることが作法となっているのは、襖を軽く開ける為の知恵であり、周りの人に心地よく過ごしていただくための思いやり、おもてなしなのです。
では、軽い物を軽そうに持たないのはなぜでしょうか。小さい物、軽い物を重さのままに軽々と持つと、どうしても軽んじている印象を与えてしまいます。人の物を持つ時は特に注意が必要です。軽んじる気持ちなど全くないのに、相手にはそのように映ってしまい、失礼となってしまう場合があります。指輪など、小さくて軽い物ほど思い入れがある場合が多いものです。「成人のお祝いに両親からもらった万年筆」「祖父の形見の懐中時計」など、物には「想いの重み」があります。その重みも合わせて持とうとすると、自ずと軽い物が重く感じます。大切に重そうに持つと、その物の持ち主は、「私の大切な物を大切に扱ってくれた」とお喜びになります。想いの重みを持つ。とても大切なことと思います。

(3/26/2026)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com
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