アメリカの地で、カナディアン・グレイウルフの子孫を見る

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Vol.42 ▶︎生態系の救世主、オオカミが目の前に

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隣にはションボリした表情の家内。渋滞を避けるためにグランド・プリスマティック・スプリング前数キロの脇道にキャンピングカー停め、マウンテンバイクで移動した。当然のことながら最後は、そこまで戻らなければならない。アイスクリームを楽しみにマウンテンバイクを漕ぎ続けた。汗が引くのを待つ車内で、家内はチョコミントを食べると揺るぎ無い覚悟を持って決めていたのだ。 オールドフェイスフル・ビレッジからモーニンググローリー・プールまで片道1㎞程。歩行者・自転車専用の平坦な道が続く。ルート脇にあるガソリンスタンドで、ガリガリ君のようなアイスキャンディーを買った。チョコミントではないが、何とか気を取り直しマウンテンバイクでお目当てのモーニンググローリーへと向かう。モーニンググローリーとは英語で朝顔の意。午後の光を受け、神秘の色を発するモーニンググローリーの美しさは際立っていた。 ガイザーカントリー、レイクカントリー、キャニオンカントリー、ルーズベルトカントリ、そしてマンモスカントリー。

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遠目ではあるがオオカミの特徴がはっきり見える

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園内の五つの地域を結ぶのは、南北に二つの輪を並べたような八の字ルートだ。南のループを時計と逆回り。それが本日のルートだ。オールドフェイスフルを後にし、レイクカントリー経由でベースキャンプがあるキャニオンへと向かう。途中、ヘイデンバレーの入り口で、再び渋滞にハマった。このあたりでは、常にバイソンが群れている。バイソンによる道路遮断、イエローストーンで有名なロード・ブロックだろうか・・・。  路肩には何十台もの車が止まっている。皆が遠くの平原を注意深く見ている。パッと目には何頭かのバイソンが見えるだけだ。数十メートル先の不安定な路肩にキャンピングカーを停める。人だかりに駆け寄り、何が見えるのか聞いた。帰ってきた答えは、なんとオオカミだ。一面に敷き詰められた緑のジュータンの上に見えるのは、ほとんど身動きしないバイソン数頭。そして対照的に足早に動く小さめの影。望遠鏡を目に翳す。犬のような動物がいる。コヨーテやキツネよりはるかに大きい。間違いない。かつてカナダから連れてこられたグレイ・ウルフの子孫だ。まさかオオカミを見られるとは。双眼鏡を握る手に力が入る。 赤ずきんちゃんを初め、、昔話に登場するオオカミはいつも悪者だ。アメリカでもかつては、オオカミは家畜を襲う害獣として駆除され、絶滅の危機にあった。肉食獣の減少により大繁殖したのはエルクなど大型のシカ科の動物だ。1930年台には、増えすぎた草食動物による生態系への影響が問題視され始めていた。しかし、アメリカ政府が行動を起こしたのは半世紀以上経ってからだ。
1995年1月12日、カナダのジャスパー国立公園から、8頭のグレイ・ウルフが持ち込まれた。翌年までに31頭のオオカミがイエローストーンの地に放たれ、その後もオオカミ再生プロジェクトは続いた。四半世紀を経た今、カナダから移り住んだグレイ・ウルフの子孫たちは、この地の生態系の一部となっている。自然のバランスを取り戻しつつあるこの地は、花や植物は勿論のこと、小鳥を初め、鷹、キツネ、ビーバーなど様々な動植物に生命の営みの場を提供している。一旦、狂い始めた生態系の時計を逆戻りさせた張本人であるオオカミが、いま目の前を歩いている。二頭いるようだ。 イエローストーン国立公園の名前の由来は、公園内を流れるスネークリバーが作り上げた渓谷に露出する岩の色から来ている。グランドキャニオン・オブ・イエローストーン。眼下に広がる深い谷の両岸は、確かに黄色い岩に覆われている。昨日の夕刻に、二頭のオオカミを見た後に立ち寄った時よりも、朝日に輝く渓谷は、さらに黄色みが増して見える。昨日に続いて、二日連続でのアーティストポイント。深い渓谷と、その先で爆風を上げて流れ落ちる滝。敢えて二度来る価値はあったようだ。

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一昔前と比べると鮮やかさを失ったが未だ美しいモーニンググローリー

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(12/13/2022)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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